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からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話

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 (絶対に間違いはない。
 鋭くにらむ細い目に、深い印象がある。
 にらまれただけで、ゾクッとするような、残忍さを感じたもの
 でも、これからどうしたらいいの・・・
 警察へ通報をするべきだろうか・・・・
 待て待て。この男は、美和子のご亭主だ。
 もうすこし美和子から、事情を探る必要がある。
 対策を考えるのは、それからでも遅くないだろう。
 疑われず、まずは、さきほどの顔写真を手に入れる必要がある。
 何か無いのかしら、妙案が・・・・)

 水道を止めた貞園が、濡れた指先をハンカチで丹念に拭いていく。
小さな窓から何気なく、下の歩道を見下ろす。

 (ヤクザの亭主と、夫婦間のDV。
 そんな美和子が、妊娠をしている。
 今の美和子の立場は、とても微妙で厄介だ。
 亭主はおまけに、あのときの銃撃事件の実行犯ときた。
 でもそれよりもはるかに大きな問題は、美和子が
 子供を産むと決意したことだ。
 うまくいけばいいけど、一つ間違えれば、美和子自身まで崩壊する。
 なんという日だろう、今日という日は。
 喜びと衝撃が頭の上から、いっぺんに舞い落ちてきた・・・・)

 貞園の落ち着かない目線が、下の通りを見つめる。
目線の隅に、ふとまた気になる人影が現れた。
見覚えのある女が、呑龍マーケットの角からあらわれた。
呑竜マーケットの角から現れたのは、先ほど見失ってしまった、あの
つばの広い麦わら帽子を胸に抱えている。
(あっ。また現れた。例のあの子だ!)
見つめている貞園の頭に、突然、あるひらめきが走る。
(使えるかもしれない・・・・)
化粧室を飛び出した貞園が、自分の席へ駆け戻る。

 『あら、大丈夫だった、貞ちゃん』声をかけてくる美和子の手を握る。
そのまま、通りに面した窓際まで引き寄せていく
『ほら!』と、階下の歩道を指でさす。

 「あの子。たった今、呑竜マーケットの角から出てきたの。
 気になるでしょう。なんだか、不思議な雰囲気が漂っているもの」

 「初めて見る子ですが、どこかで会ったような気もします。
 上からだもの。表情が良く見えないわ。
 あの子が頻繁に、呑竜マーケットへ現れるという女性なの?
 私たちと同じくらいの年代に見えますねぇ。
 たしかに、貞ちゃんが言う通り」

 『そうだ。絶好のチャンスだから、あの子の写真に撮っておこう』
庭園が自分の携帯電話のカメラモードを起動させる。
だが次の瞬間、絶望的な声を上げる。

 「絶好のチャンスだというのに、こんな時に限って電池切れだ。
 美和ちゃん、携帯を貸して。こんなチャンスは滅多にないもの。
 ついでに康平に急ぎの用事を思い出した。
 悪いけど、写真を撮ったら、康平に電話をかけてもいいかしら」

 「物好きですねぇ、貞ちゃんも。
 はいはい、どうぞ。2枚でも3枚でも気が済むまで撮って頂戴な。
 通話もどうぞ。遠慮しないで使ってね。
 そのあいだ、あたしはお手洗いへ行ってきます。
 病院の緊張案感から、ようやく開放されて、バタバタしている貞ちゃんを
 見ていたら、なんだか催してきちゃったみたい。
 ごめんねぇ、うふ」


 (おっ、願ってもない理想的な展開になってきたぞ!)
急いで焦点を合わせた貞園が、女の写真を立て続けに撮影する。
メニューから、康平の電話番号を検索していく。
(康平と、呼び捨てで登録してある。美和ちゃんも単純ですね。うふふ)
数度の呼び出し音のあと『もしもし』と呑気に応答する
いつもの康平の声が聞こえてきた。