小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の好きな彼女

INDEX|6ページ/68ページ|

次のページ前のページ
 


冬の陽は暮れ始めるととてつもなく早く、僕と彼女を囲む世界は青から黒へとあっという間にその色合いを移ろわせた。
そんな中僕の目の前には彼女の背中がある。

「付いてきて」

と彼女が呟き、僕に背を向けて歩き出したので、僕は何となくそれに従ってしまったからだ
断ることだって可能だったはずだ。
なのに僕は栓の抜けた風呂の湯が底の穴に吸われるような当たり前さで、彼女の後に付き従い、とことこと歩き出した。
ふと頭の中を過ぎったのは家に帰るための電車の時間のことだったが、何だかそれよりも彼女の用件は大切なものでは無いのだろうかと感じられた。
何ら根拠がある訳でもない。
ほとんどというか、実際完全に僕の直感に基づく行為で、理由らしい理由もない。
いや、あるのか。
あるとすれば、それは彼女の中にあった不思議な『真剣さ』だ。
彼女の言葉は単純なのに、広い目で見ればとても意味不明で、かといって気が狂っているだとかそんな目の輝きをしている訳でもなく、『何かの感情に抑えを効かせる程度』には、むしろ『理性的』ですらあったように僕には見えた。

彼女は薄暗い路地裏へと歩みを進め、僕はその背中をまるで童話の中で聞いた『ウサギを追うアリス』のような気持ちで追い続けた。
やがてたどり着いたのは、ビルとビルとが切り結び、街の中に設けられた死角で行き止まり(デッドエンド)だった。

「――ここでね、」

彼女が僕に背を向けたまま呟いた。
その言葉は低く冷たく、およそその中からあらゆる『温度』を取っ払ったかのような、酷薄な波を形作っていた。
彼女がくるっと振り返った。
その顔には微笑みが浮かび、軽く腰とあごを引いた様子からはいたずらっ子のような軽やかさが感じられた。
だけど、
その『軽やかさ』は彼女からその『質量の希薄さ』を思わせた。
そして思い出したのは、僕が彼女を見つめていた僅かなひとときに彼女が見せた、『かかとを軸に風見鶏のように回って見せた挙動』のことだった。

ふうっと彼女の口角が上がった口元からため息のような呼吸が漏れた。
何だか分からないが、彼女は――『それ』を告げることにためらいを覚えているのか?
だが、その口はもう少し大きく上下に開き、言葉を結んで、僕に放った。
その声は、僕にこう告げた。
作品名:僕の好きな彼女 作家名:匿川 名