僕の好きな彼女
「その、そいつが来たとして、さ」
僕は彼女に声をかけた。
すると彼女がまた僕の方に振り返った。
「僕はどうすれば良いの?」
僕の問いに彼女は軽く一度頷いた。
「声をかけてくれると良いと思う。『お前がしたことを知っているぞ』って。そして、あの路地裏に連れてきて欲しいの」
そして彼女はそんなことを言った。
「そりゃ、危険だな」
僕はだから思ったままに答えた。
「だから、まずはアイツに向かって携帯電話を突きつけて。実際に鳴らさなくても良いから、画面は『110番表示』にしておくの。それからは、絶対にポケットの中で携帯電話を握ってて。アイツが何かしそうになったら、そのまま鳴らせるように」
彼女はそう言った。
なるほど、それならいきなり相手も妙な真似は出来まい。
「私が姿を見せて、声をかけたとしてもアイツは思い通りにはならないと思うから。逃げちゃうか、『舞台が整う前の幽霊の姿』を見たなら、びっくりしながら、でもあざ笑うか。そんなのは駄目。絶対に許せない。私はアイツと話がしたい。どうしても問いただしたい」
彼女は淡々と足下を見つめ、身を切るような言葉を紡いだ。
だから、
「なんで、そんなに問いただしたいの?」
僕は尋ねた。
すると彼女は、
「両親は私を愛してた」
と呟いた。