僕の好きな彼女
何となくだけど、その理由を僕は想像した。
そして、その瞬間に彼女を哀れむのを、止めた。
彼女は逆説的だが、発した言葉とは裏腹に自分を『可哀想だ』とは思っていない。
むしろ『思われたい』と願ってもいない。
だけど、彼女が僕の助力を得るには、僕の中に『助けるための動機』が必要だと感じているのだろう。
僕という『赤の他人』の中に『わき起こる可能性がある動機』、そんなモノを考えたとしたら、単純かつ簡単なものはひとつしか無い。
それは事件の被害者に対する『同情』で『哀れみ』で、とてもイヤな言葉で言うならば『上から目線での差し伸べる手』なのだろう。
『義憤』なんて、所詮全くの赤の他人のためにわき起こることはない。
しかもそれは求められる側には必要の無いことで、場合によっては命の危険に及ぶ可能性すらあるようなことなど、『人生の中で行うべきでない行為』そのものなのだ。
なので、
僕は彼女が『真剣』であるのだと悟った。
彼女は自分の中にあるあらゆるプライドをかなぐり捨てて、『自分の価値』を下げ、せめて『哀れんでもらうこと』で、それを為す仲間を求めようとしたということに他ならないのだから。
『義憤の施し』を受けるために、『彼女が出来る精一杯』が『その言葉』だったのなら――僕には僕で――酔狂で付き合うだけの『興味が』あるということに、なんだかとてもしてみたくなった。
だけど、一方で事はそう簡単じゃない。
彼女の『切実さ』は理解できても、僕にはまだ確認したり、理解しておきたいことがあった。
だから、
僕は下がり書けた自分の足を踏みとどめ、もう一度身体の真下に戻した。
彼女としっかり対峙した上で、行き止まりの路地裏で、
「いくつか教えて欲しい」
と彼女に問うた。
彼女の要求を『映画館に入ること』に例えるなら、
この瞬間に、
僕は間違いなく『半券が切られる前のチケット』をぐっと手の中に握り込んでいた。