僕の好きな彼女
※
「僕が、手伝う?」
言葉をそのまんま受け取るとするならば、しかも――殺人犯を?
問いかけに彼女はこくりと頷いた。
「冗談じゃない!」
なかば反射的に、僕はそう言い放っていた。
目の前に対峙するのが『リアル幽霊』であると言うだけで非常識なのに、その幽霊が僕に求めることが、『自分を殺した人間を探すことを手伝って欲しい』だなんて、ふざけているにもほどがある。
だけど彼女はそんな僕の様子などにはいっこうにお構いなしで、強い意志を秘めた黒い瞳を真っ直ぐ僕に向け続けている。
だから、
「君のことは、君のいうとおりのことがあったのだとしたら、気の毒だとは思う。でもそんなのは警察に任せておけば良いじゃないか」
思うままに僕は、そう言った。
すると彼女はゆるゆると首を横に振って、言葉ではなく態度で何かを否定した。
――振り返って、一気に逃げ出すべきじゃないか?
関わり合いになる必要は無い。
『初対面の幽霊』なんかに対して、僕にはそんな義理があるはずもない。
気取られないようにと思いつつ、僕は右足を後ろに向け半歩、音を立てないように最大限の気を配りながら下げた。
すると、
「行かないで」
と彼女がそっと呟いた。
まるで心を見透かされたような一言に、きびすを返すタイミングを伺っていた僕の心が挫かれた。
「私には――時間が無いの」
そしてそう彼女は続けた。
それがどこか乾いたような、なぜか、言いがたい寂しさを帯びたような口調だったので、僕は眉根を寄せた。
時間が無い?
既に死んで幽霊になっているはずの、彼女に?
なんで、そんなことを言うんだ?
「私はあなたを縛らない。あなたも従う義理はない。だけど、少しだけ聞いて。もしも私のことを少しでも――『可哀想だ』と思ってくれるなら」
そして彼女は、そう言った。
僕はふと、可哀想という言葉を発した瞬間の彼女の顔が痛ましく歪んでいたような気がした。