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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「父親譲り」 第三話

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ゆっくりとバスタブに浸かって昔のことを思い出していた。
明日になれば両親にこれからのことを話さないといけない。とりあえず逃げ出すようにして帰ってきたので、正式な離婚手続きとか、引っ越しとかの手間も考えると憂鬱になってしまう。

二階の自分が使っていた部屋に戻ろうとすると、父と母の声が聞こえてきた。それは自分がずっと嫌っていたあの声のように聞こえた。
この年になっても父はまだ母を求めているのだ。そしてそれは私が帰って来た日だというのに遠慮もない。
きっと母は断りたかっただろう。

綺麗に片付けられていた部屋に入ると、ベッドに横になりしばらくそういうことはしていなかったことを寂しく感じられてきた。
両親の声に刺激されたわけではなかったが、自分も女として歓びたいと願う気持ちに嘘は無かった。伸治とのことが片付いたら、新しく恋をしてみたいと思う。そして30代で子供を産んで育てたいとも考えた。

不思議に昨日までの苦しかった気分は無くなっていた。これが実家という場所の力なんだろうか。やがて深い眠りに就き母に起こされるまで目は覚めなかった。

「美津子!もう昼前よ。起きたら」

その声は懐かしく耳に響いていた。
子供心に植え付けられていた同じ言葉だったのだ。

「うっかり寝すぎちゃったわ。すぐにしたくするね」

顔を洗いうっすらと化粧をして、居間にいる父親に挨拶をした。

「お父さん、ゴメンなさい。わがままを聞いてもらって」

「おれは許してないぞ。こいつが頼むから家には入れたけど、住んでいいとは言ってないからな」

「そうよね。自分勝手に出て行って自分勝手に結婚したんだから当たり前よね」

「わかっているなら、ちゃんと解決してから戻ってきなさい」

「伸治はもう話せるような状況じゃないの。すぐに手を出すから何も言えない。だから内緒で逃げてきた」

「そんなひどい奴を何故好きになったんだ?解っていたんだろう、見る目が無いなあ~お前は」

「頑張ると言ってくれたから信じようと思ったの。私にもいけないところはあるの。でも怖くなってしまって耐えられなくなった。しばらく居させてくれたら夫とは離婚の調停をするつもり」

「おれの知り合いの弁護士に頼め。お前はあいつともう会うな。時間が全部解決する」

「お父さん・・・ありがとう」

「礼を言うなら良子に言ってやれ」

それは母親が父を説得してくれたという事を物語っていた。