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秘密

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~プロローグ~

本当にここは日本だろうかと思うほどに、荒れ果てた廃屋が立ち並ぶ村だった。
行政から見放され、見捨てられた場所だ。村人たちは去り、無人の村となっている。
こんな処に、一体何があるというのか。

大学時代の同級生に、ちょっと変わった奴がいた。
着ている服は一年を通して常に同じで、教科書もノートも筆記具も持たず、
授業はただ聞くのみ。
授業以外の時間は、すべて図書館で本を読み漁っていた。

そんな奴の唯一の友人が自分であった。
たまたま大学の入学式のとき講堂の中で席が隣で、一応なんとなく
礼儀としてあいさつをしたまでだったが、学部も学科も同じで
寮生であることも判明したのもあって、友人?になったわけである。

その変人の奴の出身地が、この村なのだ。
大学を卒業し、10年が経過しようとした頃、
奴から最初で最後の手紙が来た。

「故郷に、大事なものを置いてきた。
それをお前に託したい。」

そんな一文から始まる手紙だった。

「手紙より電話が早いのだが、伝えたいときには死んでいるだろうから
手紙にしておく。
 
自分が生まれ育った村には、村のみんなで代々守ってきた遺産がある。
いつの時代の遺産なのか、遺産が一体なんなのか一切何も知らされてはいないのだが、とにかく未来永劫守り続けるよう先祖から言い聞かされて育ってきた。

村を出ても、遺産の秘密は決して漏らしてはいけないとされていた。
にも関わらず、村人の誰かがこの遺産の秘密を漏らしてしまったらしい。

 あるとき、遺産目当ての集団が村に来て、村長に遺産のことを尋ねてきた。
村長は、のらりくらりと話をそらして時間を稼いで、その間に
村人たちを村の外に逃がした。
その時、12才だった自分も村をでた。
両親と9才の妹がいたが、一家離散せざるを得なかった。
この村の出身であることを一切誰にも知られてはいけないと両親に言われた。

村をでて、一人で街をさまよっていたところを保護されて、孤児院に拾われた。
自分の身の上を一切知られないように、言葉を話せない振りをした。
学校でも孤児院でも一人で過ごした。
なんとか時間をつぶそうとずっと本を読んでいた。
何も自分の痕跡を残さないように細心の注意を払ってきた。

それなのに、大学時代なぜお前にだけは、いろいろと
話してしまったのか。

今となっては、話してしまったことを後悔している。
自分の重荷を知らず知らず背負わせてしまったこと、巻き込んでしまったことを
本当に申し訳ないと思っている。

大学時代に、たまに自分と他愛のない話をしていたのを覚えているだろうか。
どうか友人と今でも思っていてもらえるのなら、その一つ一つの会話を思い出してほしい。

自分は、この世の誰にも話してないことを、
お前にだけは話していた。

お前に頼みがある。
遺産を見つけてくれ。
そして、願わくば遺産をこの世からなくしてほしい。


                        平成22年2月10日」


今から3年も前に、この手紙は書かれていた。
(ちょっと待ってくれよ・・・・。)
グルグルと回転性のめまいが襲ってきた。
軽くパニックになっていた。

短い手紙の割りに、あまりに情報が多すぎて全くもって処理ができてない。
自分にとっては、変わり者だったなという印象しか残っていない、
その友人が3年も前にすでに死んでしまっていたのだ。
しかも重大な遺産の秘密が自分の記憶に残され、その行く末まで託されて・・・。

突然降りかかってきたこの事態を絶望的な試練のように
感じてしまうのは、奴がこの遺産のせいですでに死んでいるからだろう。

ただ、これは自分をただ一人の友人と思い、残してくれた遺書。

大学卒業以来、音信不通だった。
奴はきっと誰にも相談できず、遺産と向き合ってきたのかもしれない。
どんな最期を迎えたのか。
なぜ死ぬことになったのか。
遺産とは何なのか。


(どうする・・・自分。)


小一時間、壁によりかかりへたり込んで考えた。
絶望的な善人でお人よしな自分が出した答えは、・・・・・



作品名:秘密 作家名:noir99