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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 (5-1)

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その間に、肝蔵は、崖から這い上がった。残っている鬼は一匹。彼は、先に鬼と一戦して居るので、敵がどの様なものかは、大体想像がつく。一対一なら、何とか出来る。それに、もし残る一匹が、十郎を追い始めたら、如何に十郎と云えども助かる望みは無い。手を拱いてじっとして居るより、いっそ鬼一匹血祭りに上げて、先へ進もうと考えたのである。
加えて、当時の武士には、それぞれ面目というものがあった。仲間同士で庇い合う心と合わせて、互いに競い合う心も大きかったのである。十郎が、鬼一匹相手にして居る間、わしは此処で高みの見物という訳にはいかぬ。主である本多勝忠の名を汚さず、同時に帆阿倉肝蔵の名に恥じぬ様な働きをせねば・・・。と、武士たる者それぞれに一端の魂を持って居たのである。(今の若い奴らに、爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいですわ。)
「おい、残りの鬼! もう一人居るのを忘れるな!」
肝蔵は、岩崖を気にして居る鬼に声を掛けた。鬼は振り向いて、肝臓を見付けた。
「帆阿倉肝蔵じゃ! ちと遊んでくれるわ。」
と、肝臓は、得意の小太刀を抜き、いざ、お相手をと身構えた。
「・・・・!」
肝蔵、小太刀を構え、じりじりと左に回る。だが鬼は、一言も発せず、鉄棒を持ったまま腕をだらりと下げ、まるで戦う様子を見せない。
(こ奴、腕にかなり自信が有る・・)
とみて、肝蔵、まず小手調べとばかりに、一歩踏み出し、同時に上段の構えから小さく太刀を振り下ろす。勿論、太刀は相手に届かない。
肝蔵は、妙な感じだった。普通、誰でも相手が太刀を振れば、例えそれが届かずとも、何か次の事態を考えて、身構えを変えるなりする筈である。ところが、この鬼、一向に動く気配さえ感じさせない。
(何処か奇妙な奴じゃな。)
と、肝蔵は、身構えながら改めて鬼を見た。なんと鬼の目から涙が出て、それが頬を伝って居る。
「肝蔵・・・」
鬼が、彼の名を呼んだ。