新連載!「父親譲り」 第一話
夫の暴力から逃げるように家を出てきて、実家に着いたのは深夜になっていた。
最近自分名義で夫婦の貯金から払って買った赤のプリウスだけが今は自分の持ち物だった。
家の近所まで来て母に電話を入れた。
「もしもし、美津子(みつこ)。もうすぐだから鍵開けて置いて」
「わかったよ」
母親の良子(よしこ)は迷惑そうにしていたが、娘を追い返すわけにはゆかなかったのだろう。
玄関を開けて久しぶりに見る母の顔はやや疲れているというか、固い表情だった。
「今夜は遅いからお風呂に入って寝なさい」
「お母さん、ごめんね。明日話すから。そうさせてもらう」
「いいのよ。じゃあ、部屋はそのままだから使って」
「うん、荷物だけおいて直ぐにお風呂使わせてもらうね」
「私はもう寝るから」
「大丈夫」
母親は二階へ上がって父と二人の寝室に入った。
結婚するときに両親は夫のことを猛反対した。
理由はいい年をしてフリーターであったこと。結婚を言い出す資格などないと父は厳しく夫に話した。
母もそれは同じ考えだったようだ。女は男の懐で人生が決まるというのが口癖だったからだ。
今はそんな時代じゃないし、夫の稼ぎが悪ければ自分が働いて夫婦で助け合えばいいんだと私は口答えした。
当時の彼は「美津子のこと好きだけど結婚はしない方が良いみたいだな」と言うようになっていた。
そんなに美人じゃないし、自分も定職に就いてないから偉そうなことは言えなかった。それに彼とは学生時代からの長い付き合いだったので別れて新しい出会いを探すなどという事は無理だとも思えていたのだ。
大学二年の時に一つ年下の新入生だった彼に誘われて付き合うようになった。それまで恋愛経験の無かった私は彼が全てに初めての男性だった。
だからいわゆる男の人のそれもやり方もそういうものだと考えていたし、変だとも思わなかった。
単身で東京の大学にアパートを借りて通学していた。家を離れた寂しさと、友達付き合いが上手く出来なくて孤独だった時期に彼の存在は計り知れなく大きなことだった。
付き合ってすぐに彼はアパートに泊まりに来て身体の関係が出来た。
初めてのことで何がどうなのかわからないまま、それはあっという間に終わった。
ほぼ週に一度ぐらいでアパートに泊まりに来ていた彼は、やがて私が卒業したらどうするのか聞いてきた。
最近自分名義で夫婦の貯金から払って買った赤のプリウスだけが今は自分の持ち物だった。
家の近所まで来て母に電話を入れた。
「もしもし、美津子(みつこ)。もうすぐだから鍵開けて置いて」
「わかったよ」
母親の良子(よしこ)は迷惑そうにしていたが、娘を追い返すわけにはゆかなかったのだろう。
玄関を開けて久しぶりに見る母の顔はやや疲れているというか、固い表情だった。
「今夜は遅いからお風呂に入って寝なさい」
「お母さん、ごめんね。明日話すから。そうさせてもらう」
「いいのよ。じゃあ、部屋はそのままだから使って」
「うん、荷物だけおいて直ぐにお風呂使わせてもらうね」
「私はもう寝るから」
「大丈夫」
母親は二階へ上がって父と二人の寝室に入った。
結婚するときに両親は夫のことを猛反対した。
理由はいい年をしてフリーターであったこと。結婚を言い出す資格などないと父は厳しく夫に話した。
母もそれは同じ考えだったようだ。女は男の懐で人生が決まるというのが口癖だったからだ。
今はそんな時代じゃないし、夫の稼ぎが悪ければ自分が働いて夫婦で助け合えばいいんだと私は口答えした。
当時の彼は「美津子のこと好きだけど結婚はしない方が良いみたいだな」と言うようになっていた。
そんなに美人じゃないし、自分も定職に就いてないから偉そうなことは言えなかった。それに彼とは学生時代からの長い付き合いだったので別れて新しい出会いを探すなどという事は無理だとも思えていたのだ。
大学二年の時に一つ年下の新入生だった彼に誘われて付き合うようになった。それまで恋愛経験の無かった私は彼が全てに初めての男性だった。
だからいわゆる男の人のそれもやり方もそういうものだと考えていたし、変だとも思わなかった。
単身で東京の大学にアパートを借りて通学していた。家を離れた寂しさと、友達付き合いが上手く出来なくて孤独だった時期に彼の存在は計り知れなく大きなことだった。
付き合ってすぐに彼はアパートに泊まりに来て身体の関係が出来た。
初めてのことで何がどうなのかわからないまま、それはあっという間に終わった。
ほぼ週に一度ぐらいでアパートに泊まりに来ていた彼は、やがて私が卒業したらどうするのか聞いてきた。
作品名:新連載!「父親譲り」 第一話 作家名:てっしゅう