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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「化身」 最終話

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「バカ者、作治は良いことをした後で食べてしもうたわ」

「南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏」

「遅い!」

村長はあっという間に鬼に食べられてしまった。
菊の姿に戻った鬼は何事もなかったように村へ引き返し、毎年一人ずつ神隠しと偽って村人を食べ続けた。そして成長した作蔵も同じようにした。

数十年が経って村人が居なくなったことを伝え聞いた水無瀬の主は、ひらめいたように言い残したいことを息子に話した。

病床で息子に看取られながら、主は言った。

「息子よ、白鬚神社に封印してある鬼の魂を家に伝わる義仲殿の刀で刺し貫いてくれ」

「父上、そのようなことをなぜ?」

「考えて、考えて思いついたことがあるのだ。あの鬼は、義仲殿の息子力寿丸殿の無念の怨念から化身したと思われる。父親の刀で差し突かれれば本望であろう。これ以外に思い当たることは何もできぬ。頼むぞ」

そう言い残して深い眠りに入った。

恭しく封印されていた木箱を開けて中から封印の魂を出すと祈りを込めて義仲の脇差で突き刺した。

みるみる封印された魂は真っ赤になり、おびただしい血の匂いが立ち込めた。
村を出て次の村へ向かっていた菊と作蔵は辺りにこだまするほどの奇声を上げてその場に倒れた。
新たなる犠牲者が出なくなったことは亡き村人のすべての魂からの祈りであったろう。
菊が伝えられてきた怨念の伝承者であったことは背中のアザが証明していた。

もし、作治が祠で忘れずに菊の背中にトリカブトを塗っていたら、アザがあることに気付いただろう。そしてそれが小さな疑問に変わっていたら、悲劇を防げたのかも知れない。
愛する人のために命を投げ出して、人間に戻った鬼を退治に出かけた作治の強い菊への思いは、それを無残な形で裏切られてしまった。

上田の庄へトリカブトを求めに行った途中で、作治が菊を無理やり手籠めにしていたら、罰の悪さからこれほどの思いをよせることはなかったであろう。
運命は時に多大な犠牲を払わせて後の世に知らしめると言う悪さをするのだ。

終わり。
作品名:「化身」 最終話 作家名:てっしゅう