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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「化身」 第九話

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菊は頭を下げてよろしくと小声で言った。
宴会から戻って来てさっそく作治は菊を求めた。忘れられない快感が毎日続く。菊は妊娠していた。作治は大いに喜び子供の名前を考えるようになっていた。

「菊、男の子に決まっておるから、名を作蔵としよう。おれに似て男らしく育ってほしいからな」

「作治さま、女の子かも知れませんよ。その時の名はどうされます?」

「う~ん、おなごか・・・そうじゃな、春に生れるだろうから桜と言うのはどうだ?」

「桜、良い名ですね。男の子なら作蔵、女の子なら桜ですね」

「ああ、どちらにしても菊の産んでくれる子だから可愛い子だろう。早く春が来ると良いのう」

菊は作治の喜びに微笑みで返していた。
問題の大晦日が来ても村には何も起こらなかった。
菊の腹は大きくなって目立つようになっていた。
桜の花が散って緑が村を蔽うようになって菊は子供を産んだ。
大きな立派な男の子だった。

「菊、よくやった。男の子じゃ!作蔵じゃ!」

喜び駆け回る作治は小さなことを見落としていた。
菊は男の子の背中に小さなアザがあることを確認した。そのアザは自分の背中にあるものと同じものだった。
菊の背中のアザを作蔵は気付いていない。決して背中を菊は見られないようにしていたからだ。

菊と作治が村へ戻って来て一年が経とうとしていた夏の終わりに、事件は起こった。
菊は作蔵を抱きかかえて村長の所に走り込んできた。

「大変です!作治さまが居なくなりました」

「菊、どういうことだ?」

「はい、昨日何やら用事があると出て行ったきり戻ってこないのです。すぐに戻ると話していたのに」

「それは心配じゃな。何人かで探してみよう。家で待っていなさい」

「はい、お願いします」

数日が経っても作治は見つからなかった。悲しみに暮れる村人たちはきっと神隠しにあったんだとうわさをしていた。
残された菊と作蔵が不憫だと、選ばれた村人が再婚した。
菊の真っ白で妖艶な肢体に魅了され男は毎日のように励んでいた。そして作治の時と同じく一年経ったある日突然姿を消した。
作品名:「化身」 第九話 作家名:てっしゅう