プロポーズレーシング
各選手、異性のアンドロイドに向かったぁ!」
スタートは全員横一列。
勝負は完全に口説きの速度で決まる。
賞金10億円は渡してたまるか。
人工知能内臓アンドロイドだかなんだか知らないが、
ホストクラブで身につけた口説き文句、見せてやる。
「へい、ベイビー。
君の瞳に恋をしてしまったようだ。
僕と結婚してくれないか」
「………」
「きっ、君の恋に瞳をしてしまったようだ。
僕と結婚してくれないか」
「…………」
あれぇぇぇぇ!? こんなはずでは!!
普段のホストクラブならすぐにめろりんきゅーにさせるのに!
「はっ! そうか、こいつはアンドロイド!
俺のルックスなんて査定範囲にないのか!」
周りを見渡しても誰もがアンドロイドに苦戦しているらしい。
全員が自分のルックスありきで参加していたからだ。
だが、問題はない。
俺とて一枚岩ではない。
「……いや、強引に言ってすまなかった。
君と結婚するなんてやっぱり無理だ」
「…………」
押してダメなら引いてみろ作戦。
さあ、乗ってこい! 乗ってこいアンドロイド!
「……どうして? どうして結婚できないの?」
「……言えないよ。
聞けばきっと君は怒るから」
「気になる」
「君という財産を僕一人で独占することを
――神様が許してくれないのさ☆」
「……どうして結婚できないの?」
アカンかったーー!!
アンドロイドに複雑な告白はダメだ!
こうなったら奥の手、実力行使だ。
強引にキスのひとつでもすれば
ここまで精密に人間を模したアンドロイドであれば
コロッと落ちるに決まっている。そうに違いない。
いざ、むちゅーー……
バンッ!!
ドゴォッ!!
「……え?」
俺の唇をわずかにかすめて人が飛んできた。
飛んできた人は会場の壁に頭がめり込んでいる。
「セクハラを確認。排除しました」
あっちのアンドロイドはビンタの構えをしていた。
それを見ていたほかの参加者も、
アンドロイドにキスしようと伸ばしていた口を一気にすぼめた。
「まさか……アンドロイドにキスするのはダメなのか……?」
それから、ほかの参加者と一緒に
アンドロイドにも響きそうな言葉を一生懸命語ってみたが
やっぱり、うんともすんとも答えてくれなかった。
「ぴ、ピットイン!」
ここでたまらずピットイン。
整備士がやってきて、俺の汗や水分補給を手伝ってくれる。
「どうですか? 口説けそうですか?」
「いや、なかなか手ごわい。
いくら口説いても答えてくれないんだよ」
「見てください。この会場に配備されているアンドロイドです」
「超人格投影型究極アンドロイド……?
人間の感情の一切を理解するハイテクロボなのか」
「はい、ですから、人間相手だと思った方がいいです。
いや、むしろ人間以上に人間らしいはずです。
人間の感情や欲望を混じりけなしでプログラムされていますから」
「だったらどうしろっていうんだよ……」
周りの選手もピットインしていた。
このまま、耳触りのいい言葉を並べても
時間と体力の消費をするだけだとわかったんだろう。
「僕に考えがあります。
告白してダメなら、告白させればいいんです」
ピットから出て、再びアンドロイドのもとへダッシュ。
今度は口説き文句をマシンガンのように浴びせるのではなく、
それとなく手をつないで、ベンチに座ったり、二人の時間を増やした。
「あなたは告白しないのですか?」
「告白、か。
君も僕を好きだとわかったらいいんだけどね、あはは」
秘技・シチュエーションづくり。
ロマンチックな夜景に、豪華な料理。
ふたりの両親の話をしたりして意識させる。
加えて、それとなく俺の好き好きアピールも挟みつつ……。
かといって、こちらからは告白しない。
そのストレスに機械が耐えられるかな。
「こ、こここ、告白、しな、い……?」
「僕の気持ちと君の気持ちが同じだったらいいんだけどなぁ」
「それ、それは……それは……」
告白用アンドロイドは、
超速計算で今さらされているストレスを
一番手っ取り早く解決する方法に到達した。
「私も、好き、です」
「やったーー! ゴールだ!
1位でゴールだ! 10億円だ!」
プロポーズの成功により、ゴールに飛び込んだ。
見る限りほかの奴らは、まだごり押しで告白している。
「ああ10億円……何に使おうかなぁ。
うふふ……むふふふ……」
妄想で転げまわったあと、やっと気が付いた。
すでにゴールしている人がいることに。
「やっと2番の到着か、待ちくたびれたよ。
このレースは3位まで決まらないと終わらないんだ」
「そんな……俺が2番!?
あれだけ人間らしいアンドロイドはほかにいないんだぞ!
お前、いったいどんな言葉で口説いたんだ!」
1位の男はあっさり答えた。
「僕にはお金がありますよ、とだけ」
10億円つかんだ男はさっさと帰っていった。
作品名:プロポーズレーシング 作家名:かなりえずき