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レイドリフト・ドラゴンメイド 第12話 量子の藁の城

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 ピンク色と、もう一匹の黄色い猫型ランナフォンが床に転がるボルボロス自動小銃や肩撃ち式ロケット砲を見つめた。
 2匹の体からオウルロードの量子プログラムを示すピンク色の稲妻が走り、武器に吸収された。
 その武器は隙間からピンク色の光を放ちながら、先ほどの爆撃機と同じようにふわりと浮かびあがる。
 そして一斉に壁へめがけて銃口をそろえた。
「発砲もできます。ただし、」
 兵士たちの懐から予備の弾倉が浮かび上がった。
 それが、銃にもとからついていた弾倉と入れ替わる。
「量子プログラムでない方には、細かい動きや多数の物をバラバラに動かすのは、難しいと思いますよ」
 浮かび上がった銃から、次は壁に向かってピンクの稲妻が走った。

「ところで、ペンフレットさん」
 人工知能である、オウルロードからの質問。
「なんでしょう、編美さん」
 ベレー帽カーリタースは丁寧に答えた。
「あなたは、本当にこの世界を芸術作品として作ったのですね。兵器としてではなく? 」
 自分の誇りを、カーリタースは静かな声で示す。
「はい、マトリックス海を中心に、南北の山脈地帯、外洋の一部。
 チェ連で最も豊かな地域の豊かな時代を、再現したつもりです」
 
 この世界に突入したドラゴンメイドとワイバーン。
 その後に多くの者が続こうとした。
 そんな彼らを止めたのは、最終防壁から漏れ出した謎の粘液だった。
 PP社が持つ、移動式生物剤探知機。 それには危険な細菌は探知できなかった。
 だが、ここは異世界だ。どんな未知の細菌がいるか分からない。
 そこで、涙ながらに「粘液は安全です」と訴えたのが、カーリタースだ。
「だったらお前が入ってみろ! 」と放り込んだのは、意外にもシエロだった。とっさに、赤いベレー帽をかぶせて。
 今この様子は、ランナフォンを通じて、現実世界にも通じている。
 世の中は分からないことだらけだ。と、数えきれない人々は思った。

 今、人形兵士が転がっているのは、高山によくある、登山客向けの山小屋ではない。
 登山客も利用できるのだが、ここは防空要塞なのだ。
 道路沿いに建つ鉄筋コンクリート製、6階建てのビルの3階。そこから下は雪に覆われていた。
 周囲からの攻撃を受け流しやすくするため、要塞の形は円柱形。
 その5階部分には8方にバルカン砲、対空銃座が飛び出している。
 屋上には、10.5センチ高射砲がある。射程は12.000メートル。
 その隣にあるのは、小型の対空ミサイルを8本おさめたコンテナだ。
 これらの対空兵器は、もう一つの防空要塞から送られてくる情報で統制される。
 500メートルほど離れた、屋上にレーダーを収めたレドームを持つ同じサイズのタワーからだ。

 これらの装備が、オウルロードから放たれたピンクの光を放ちながら勝手に動き始めた。
 レフコクリソス戦闘ヘリとシデーロス輸送ヘリが近づいてくる。
 それに対し、まず対空銃座が火を噴いた。
 スフェラVTOL戦闘爆撃機も向かってきた。
 それには対空ミサイルが。
 10.5センチ高射砲は、その射程を生かして遠くの戦車を狙い撃つ。
 砲の後で蓋がひとりでに空き、次の砲弾が浮かんでは装填される。

 ワイバーンの強化された視線は、防空要塞の性能をはるかに超えて、はるかかなたの爆撃機隊をとらえていた。
 アンテナの手を防弾ガラスで守られた窓越しに、視界の山肌をなでるように動かした。
 隣の、最も多くの敵が上がる山を、鋼鉄の雨が薙ぎ払った。
 数秒遅れて、地面への炸裂音がとどく。
 10機近い巨大飛行機から生み出した破片が叩きつけられたのだ。
 同時に、燃え残った爆弾や燃料タンクに火がつく。
 その炎はワイバーンのリモートハックにより、十派一かけらにチェ連軍の地上部隊を覆い尽くす。
 60トンあるフリソス戦車さえ山から突き落とした。
 さらに拡大した衝撃は、雪崩を引き起こす。
 発射準備中だったアントラスク80センチ列車砲は1.600トンあったが、なすすべもなく谷へと押し倒されていく。

 要塞の違う窓からは、ドラゴンメイドがのぞいていた。
 彼女は目標を、向かってくるアルギュロス戦闘爆撃機隊に定めた。
 リモートハックされた3機は、爆弾を落とすこともできない。
 前進以上のスピードでバック、降下させられた。
 木々を叩き折ったのち、彼女らのいる要塞のそばの道路に突っ込んだ。
 ドラゴンメイドは、迫りくるコンボイに狙いを定め、正面から押し込む。
 戦闘爆撃機は、火はすぐ消えたが超音速で飛ぶ無数の破片である。
 あまりに細かくなったあとは、手近な戦車を操って投げた。
 道路をたどってジグザグを繰り返し、コンボイを吹き飛ばす。
 岩に衝突してもスピードは落ちない。
 リモートハックならではの悩みに、ドラゴンメイドは細かい軌道修正をしなければならなかった。
 まさに、糠に釘。

 地球生まれの猫、人間、量子プログラムの3人は、ここに逃げ込んだチェ連人科学者に呆れてしまった。
 自分たちのテリトリーに逃げ込んだつもりなのだろうが、これでは墓穴を掘っただけだ。
 しかも、思わず現れた美しい景色を、自分たちで破壊しなければならない。
 そのジレンマは確かに、胸をうずかせる。
 
「ここからは、私に任せていただけませんか? 」
 オウルロードが言った。
「お二人に直接リクエストを伝えます。それに従って飛んでいただきたいのです」
 2人のサイボーグはうなづいた。
「わたしのことは気になさらず。覚悟はできています」
 カーリタースも、そういった。言い切った。

「そうだ。達美ちゃん、これを」
 ワイバーンは自分のオプションジェットパックを脱いで渡した。
 ドラゴンメイドは、飛行能力を失っているのだ。
 彼自身はYシャツ1枚の姿になる。
「うん、ありがと」
 うけとったジェットパックに肩に通した。
 右わき腹の服をずらし、ボルケーニウム皮膚を液体に変えてチタン装甲をだす。
 装甲はさらにずれ、下からUSBの差込口が現れる。
 そこに、ボディアーマーの裏から伸びたコードを差し込み、前をしめた。

 そとは、次々に包囲が狭まってきた。
 雪崩を起こした後でも、砲撃は飛んでくる。
 高山植物の領域でも、無数の戦車が轍を残し、こちらより高所に陣取ろうとしている。
 ワイバーンは、強化された視力と腕のスピードで、それらの砲弾を撃った相手に送り返していった。

「着たよ」
 ドラゴンメイドはそう言って、ランナフォンを抱きかかえた。
「よし、行くよ! 」
 ワイバーンはそう言うと、窓ガラスを蹴飛ばした。