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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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ボクは汚れた手を洗いに、下に下りた。
手を洗って居間に行くと、親父が白衣のまま一服していた。

「あれ、暇なの?今日」
「暑いからな、こんな日に出歩いたら、それこそ具合悪くなっちまうだろ、年寄りは」

「そんなもんかね」ボクも親父の隣に腰を下ろして、言った。

「父さん、一本くれる?」
「なんだ、お前、吸うようになったのか」
「うん、それと同じヤツ、吸ってる」

ほれ、と親父はセブンスターを一本くれた。
「前は、缶ピースだったよね・・・確か」
「ピースは美味いんだけどな、健康を考えたらコイツの方が軽いだろ?」と親父は笑いながら言った。

「お前」
「なに?」

「死んだ彼女、もう忘れられたのか?」
「ううん、さっきも思い出してたよ、部屋でさ」

「いいのか?それでも・・その、新しい彼女は」
「恭子は、それでもいいって言ってくれてる」
オレ、全部話したんだ、恵子とのコト・・とボクは言った。


「そうか、それでもいい・・か」
お前、よっぽど惚れられたんだな、その子に・・と笑いながらタバコを消した。

「いや、どうだろ」僕はあいまいな顔のまま、煙を天井に向かって吐いた。

「オレって、放っておけない雰囲気なんだって、その子によるとね」
「まあ、それはそうだろうな・・特にあの頃のお前は」

「その子は、死んだ彼女のコトに拘らなかったのか?」
「ううん、それを話したら、泣いちゃったよ」
「知らなかった、ゴメンなさいって」

そうか、ごめんなさいか・・・と親父は嘆息した。

「でも、お前が変わったのは事実だからな、父さん、親としてはその子に感謝したいよ」
「かけてやる言葉が無かったってのは、本当だったからさ・・父さんも母さんも」

ね、父さん・・・ボクは、以前から聞きたかったコトを聞いた。

「オレ、どうしたらいいんだろう」
「このまま、恭子とつきあってていいのかな」
「死んだ恵子に、悪くないのかな」

親父は、ボクの目をジっと覗き込む様に見て言った。

「父さん、好きだった人に死なれたのは家族だけだから、うまくは言えんが・・・」
「結局、時間だよ、解決してくれるのは」

「そりゃ、これからも思い出してつらい気持ちになるだろう」
「でもな、お前は生きてるんだから、これからも色んな経験しながらお前の時間は進むだろ?!」
「冷たい言い方に聞こえるかもしれんが、死んだ彼女と一緒の時間を持つ事は、お前には、もう出来ないんだ」

「うん」
「しかしな、無理やりに忘れようとして忘れられる程・・軽い経験じゃないのも確かだな」
「だから・・」
自然に任せていくしか無いだろ、結論としては・・と親父は言って、セブンスターに火を点けた。

「ふ〜」
親父は煙を吐き出して、続けた。

「死んだ彼女に、義理立てしなきゃいけないんじゃないかって思ってるのか?」
「分からない」
「でも、恭子といて笑える様になったんだけどね」
「時々ヒョっと思い出しちゃうんだよ、恵子のコト」

なんか、どっちにも失礼なんじゃないかってね・・・とボクは本音を言った。

「お前、新しい彼女の事、そんなに好きじゃないのか?」
「ううん、そんなコトない」
「今は、すごく好きだよ、オレ」

不思議な感じだった。
あの親父とこんな話を・・しかも正直に自分の気持ちを打ち明けている自分が、そこにはいた。

「それが本当なら、それでいいだろ」
「お前は、どう頑張ったって自分の心のままに生きていくしかないんだから」
「きっとな、死んだ彼女も・・」
許してくれるだろ、お前の事を好きだったんなら・・と親父は言ってくれた。

「でも多分、お前は」
「綺麗さっぱり忘れちまう・・なんて出来んだろうから、こうやって悩んで苦しむ事はこれからも無くならないって覚えとけよ?」

うん、そう思うよ、オレも・・・とボクは答えた。
「ごめんね、変なコト聞いちゃって」
「いいさ、変でも何でもないだろ」
「父さんもうまい事言えんが、お前の気持ちが分かって安心したよ」
「自殺しないかしら・・あの子、なんて母さんが言ってた事もあったからな」


ボクは思い切って言った。
「あの時・・考えたよ、一瞬」
「でも恵子の家に行ってさ、骨壷を前にしたご両親の顔見たらそんなコト出来ないって思った」

「一人娘を失ったお父さんとお母さんの悲しみ・・みたいなの?」
「オレ、父さん母さんには、こんな思いさせられないなって思ったんだ」

そうか・・・と親父はボクを見つめた。

「その、恵子さんのご両親の悲しみは、きっとお前にはまだ分からんだろうな」
「いや、実際に子供に死なれた親にしか分からんのかもしれんが」
「その時、父さんと母さんの顔を思い浮かべてくれたんなら、父さんは嬉しいよ」

親父は、微笑んでボクを見つめてくれた。

「ゴメンなさい」
ボクは真正面からの親父の愛情に、思わず涙が出てきた。
そして、一瞬たりとは言えどもそんなコトを考えた自分を恥じた。





        声





「じゃ、オレ、部屋行くわ」
「おう、少し休め」
「うん、話し聞いてくれて有難う」とボクは言って、二階の自分の部屋に戻った。

ボクは、またベッドに横になった。
「はぁ〜」

親父と、彼女について初めて突っ込んだ話しをしたせいか、ボクは少し疲れてしまっていた。

腕枕をして天井を眺めていると、恵子と、そして恭子の顔が次々に浮かんできて。

「さっきまで、一緒だったのにな、恭子」
独りごちた。
まるで、いい訳するみたいに。


いつの間にか、ボクはウトウトしていたらしい。

「ノブユキ〜?!」お袋さんの叫び声で、起きた。

「なに?」ボクは部屋を出て階段の下を覗くと、お袋が「電話よ・・吉川さんから!」と言った。
「え?恭子から?」

「上に切り替えるから・・・」
「うん、分かった」

二階の廊下の九の字に折れ曲がったところには飾棚があり、そこに置いてある電話のランプがピコピコしていた。

ボクは急いで受話器を取り上げた。
「恭子?恭子か?!」
「アンタ」
懐かしい声が聞こえてきて、ボクは何故だかジ〜ンとしてしまった。

「どうした、もう家には着いたの?」
「うん、ずいぶん前に着いたっちゃけど・・」

「けど?」
「まだパパは診療中やけね、会うとらんと」
「多分、夜になったら怒られて・・しばらく自由に動けんやろ?」
やけね、そうなる前に声を聞きたかったと・・と恭子は、半分、涙声で言った。

「アパートにかけても出らんかったけね・・お家かな?っち思うたっちゃ」
「今日の午前中まで、うちらズ〜っと一緒におったんやね」
「うん」
「今は、遠く離れてしもうたばい」

アンタの声が、遠く感じるっちゃ・・と電話口で恭子は泣いた。

「大丈夫か?恭子」とボクは言ってから、われながら間抜けだなと思った。
大丈夫じゃないって言われても、今のボクにはどうしようも出来ないのに。

「あは、ごめん・・大丈夫、アンタの声聞けたけね」
恭子は、無理やり明るい声で言った・・・痛々しい位の。

「恭子」
「心配せんで?平気やけね」

「素直に怒られて、しばらく大人しくしとったら大丈夫やけ」
「うん、それならいいけど」
「実はさ・・恭子、ゴメン」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ