Re:future
カナエは単刀直入に聞いた。
男は、その質問には答えず、
「ここじゃあなんだし、場所変えないか?」
と言ってきた。
確かに。公園で話すのはあまり気乗りしない。
と、言うことで3人はカフェに来ていた。
男にどこで話すかと聞くと、ここを提案してきたのだ。
カナエもたまに行く喫茶店だった。
店に入り席に着く。
クランという女と男は、俺と向かい合う形で座っている。
先に口を開いたのは男だった。
「あ、自己紹介がまだだったね。私はカイル・コーバー。カイルでいいよ」
先ほどのハッキングでその類の情報は知っていたカナエは、今の会話にはさほど興味は見せず、逆に質問をした。
「おい、こんな普通の人がいる前で話せる内容なのか?」
するとさっきまで黙っていたクランと言う名の女が、その質問に答えた。
「こちらの店は、『S F O』と協力関係にある店ですので、情報が漏れるようなことも、我々に不利なこともありません」
さっきまで清掃ロボットに追いかけられてたとは思えないほどの事務的な喋り方だった。
事務関係になると人が変わるのか?
いや、それよりも。
「さっきから『S F O』だの『ほーぱー』だの言ってるけど、それ、なに?」
カナエはずっと気になっていたことを聞いた。
「その情報までは盗れなかったんだな」
ボソッとカイルが言った。
なっ・・・・!
カナエは頭に血がのぼるのがわかった。
『盗れなかった』は、ハッカーをバカにしている言葉だからだ。
さすがにプライドに傷がつく。
「あれは・・・っ!」
「組織などに関しては、こちらで順を追って説明します」
半ばカナエの言葉を遮るようにクランが話し始めた。
カナエはその行為に関しても文句を言いたかったが、話す内容が気になっていたのも事実なので、黙って聞くことにした。
クランは、淡々と説明した。
観測していた人類の未来が消滅したこと。
その未来を変えるため、世界線ごと未来を変える可能性を持つ者、特異点を探していること。
特異点候補のことを「HOPER(ホーパー)」ということ。
特異点は誰か分からないため、手当たり次第にHOPERに接触していること。
候補にカナエも含まれていること。
「お前はこいつがHOPERって気付いて無かったけどな」
横からカイルが口を挟んできた。
「なっ!き、気付いてましたよ!」
クランが反論する。
「嘘つけ。俺が渡した資料ちゃんと読んでたら、気付くだろ」
「へんなロボットに追われて焦ってたんです!!」
急に始まった痴話喧嘩にカナエは困惑していた。
なんだなんだ。ギャップが激しすぎるぞこの女は。
さっきまで事務的な口調だったはずが、急に普通な話し方になる。
切り替えが上手いのかな?
カナエは2人の口論を眺めながらそんなことを考えていた。
「と、とにかく!」
クランは一つ咳払いをすると、カナエの方に向き直って言った。
「あなたは特異点となり得る可能性があるので、私たちと共に来てもらいます」
口調は、さっきのような事務的なものになっていた。
「行くって、どこへ?」
「あー、とりあえず「S F O」の日本支部まで来てもらう」
カイルが答えた。
コイツ、自己紹介の時の口調と変わってないか?
まあ、話しやすいし別にいいけど。
「日本支部に行ったらどうするんだ?」
「君が特異点となり得るのかどうか、確かめさせてもらう」
「と、いうと?」
カイルはニヤリと笑うと言った。
「世界を救ってもらう」
日本支部に行く前に準備をしてこい、と言われたのでカナエは一旦家に帰る事になった。
家に帰り、荷造りを始める。
先ほどカナエはふとした出来心で、
「これ給料でるのか?」
と聞いた。
すると、
「はい。我々と行動を共にしていただいている間は、出費は全て我々が負担します。まあ、全てと言ってもさすがに車などは交渉を必要としますが」
という意外な答えが帰ってきた。
と、いうことは新しいパソコンも買えるしヘッドホンも買えるのか。
そんな事を考えていたため、荷造りがなかなか進まなかった。
どれを持っていき、どれを新調しようか悩むのだ。
色々悩んだ末、愛着のあるヘッドホンはそのまま使い、その他のパソコン類はほぼ全て新しくする事にした。
もちろんデータは取り出して持っていく。
そう決めると、準備はサクサク進んだ。
もともと1DKの家だ。そんなに広くない。
部屋も売り払おうか迷ったけど、何かあったときのためにとパソコン共々そのまま残しておく事にした。
おっといけない。
部屋を出ようとして、カナエが忘れ物に気づく。
机の上に置かれた薄型端末。
「ナノ、起きてるか?」
『起きていますヨご主人』
端末が返事をする。
今返事をしたのはカナエが作った自立型思考AI「ナノ」である。
このAIは自ら(端末のカメラを通して)見て、学び、成長していく。
余計なことを学ばないようにいくつか学習内容に規制はかけているが、その点を除けば思考は人間にだいぶ近い。
ただ、やはりAIだからというか、少し抜けている、まあ人間でいう天然なところもある。
ナノには、調べ物が面倒な時や、1人での作業が大変な時に、手伝ってもらったりしている。
玄関で靴紐を結びながら、ナノと会話する。
「ナノ、さっきの俺たちの会話は端末のマイクから聞いてただろ?」
『もちろんでス。今から「S F O」の日本支部に行くのですよネ』
「ああ」
『頑張ってきてくださいネ』
「いやいや、お前も連れてくわ」
『そーなのデスか?』
「そうなんですのよ。さ、いくぞ」
靴紐を結び終えたカナエは、荷物と端末を持つと家をあとにした。
「おまたせしました」
カナエが待ち合わせ場所へ行くと、すでに二人は来ていた。
「二人は家に帰って準備とかないのか?」
「その点に関しては問題ありません。我々組織の人は皆、天涯孤独ですので」
しまった。とカナエは思った。
こういった組織の人たちは、情に負けて機密情報を漏らしたりしないように、孤児などで構成されていることが多いのだ。
そのことは過去にハッキングしたときにわかっていたはずだった。
「変なことを聞いて申し訳ない」
「大丈夫です」
『ご主人は何も考えずに言葉を発することが多いのデス。申し訳ありまセン』
ポケットから声がする。
「お前は黙ってろ」
カナエはポケットに入っている端末を叩く。
「今のは?」
クランが不思議そうに聞いてくる。
「ああ、俺が作った自立型思考AI、『ナノ』です」
『よろしくお願いしマス』
「ほぉ。自分でプログラミングしたのか」
端末を覗き込みながら、カイルが言う。
「このくらいのシステムなら簡単に作れる」
「か、簡単に作れるんですか・・・?」
クランがカイルに小さい声で聞いた。
「うん。無理だな」
カイルは即答した。
「でもカナエさんは簡単に作れるって!」
「自分にとって、だろ」
すいません。会話丸聞こえなんですけど。