狂人、山内義昭の供述
山田と呼ばれた刑事は懐から自前の手帳を取り出し、パラパラとめくると、今回の事件に関するページを発見し、手を止めた。
「クロなのは間違いないんですけどね。被害者女性の切断された人さし指がヤツのポケットの中に入っていたんですから」
「だけどよぉ。あれじゃさっぱり分かりゃしねぇ。この間からずっと、こっちの質問全部無視して、関係ないことばっかしゃべり続けやがって!」
滝沢は、取調室前の壁を右手の拳で殴った。山田は恐る恐る尋ねた。
「…あれは、本当の話なんでしょうかねぇ?」
「んなわけあるか!そもそもあいつの母親が再婚した経歴も、そんな男が殺害された事件なんかもねぇんだよ!全部妄想だよ妄想!」
「しかし、義父と言っても内縁かもしれませんし、事件が発覚してないだけの可能性も…」
「馬鹿言え!じゃあ何か?あいつの言うように死んだ男が台所の中に押し込まれてるって言うのか?」
「その可能性も…?」
「ねぇよ!そんな下らねぇことに惑わされてねぇで、今回の絞殺のヤマ、固めることだけ考えろ!」
「しかし全く…狂人の考えることは分かりませんね」
二人はため息を吐きながら、再び現場へと向かうべく歩き出していった。
〈終わり〉
作品名:狂人、山内義昭の供述 作家名:シーラカンス