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からっ風と、繭の郷の子守唄 第46話~50話

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 『またな』と手を振って、五六が店を飛び出していく。
入れ替わりに美女が入ってくるものと思い込んでいる康平が、
入口へ視線をむける。
下ごしらえの手を止めて、千尋が入って来るのを待ち構える。
しかし、人の気配はあるものの、恥ずかしいのか躊躇っているのか、
いつまで待っても表の人影は、店の中へ入ってこない。


 『どうぞ』と康平が声をかけても、やはり人影は一向に動かない。
前掛けを外し、それを手の中で丸めながら、康平がカウンターから表に向かう。
店内の動きを察知した人影が、さらに緊張を見せて、ぎこちなく動く。
午後の日差しの中。大きなつばの麦わら帽子を目深にかぶった千尋が、
身体を固くしたまま、軒下に立っている。
足元に、野菜がたくさん入った大きなビニール袋を置いてある。
千尋が、帽子のつばを下方向へさらにひきおろそうと、必死に苦戦している。

 「はじめまして、康平です。あなたが噂の、千尋さんですか?」

 「あ・・・・はいっ!。わたしが千尋です・・・」

 透き通る声の返事が返ってきた。
身長は150センチ半ば。体重はたぶん、40キロ台の半ばくらい。
空色の短めのワンピースからは、すらりと伸びた綺麗な足がのぞいている。
足元へ置いてある大きな野菜の袋で隠されているために、靴までは見えない。
麦わら帽子の幅の広いつばの下から、はにかんだ顔が半分だけ見える。
ピンクの口元が、チラチラと恥ずかしそうに動く。
しかし、頬をほんのりと染めたまま相変わらず、必死に麦わら帽子のつばを、
下へ押さえ込んでいく。

 「なにか不具合でもあるのですか。 麦わら帽子に?」

 「はい。あ、いいえ。帽子に不具合はありません。
 昨日カットしたばかりの私の髪型に、少し、不具合が有るのです」

 「そうですか。それでしたら、帽子はそのままでお店へどうぞ」

 康平が千尋の足元へ置かれたままになっている野菜の袋へ、手を伸ばす。
急に前傾してきた康平の動作に驚いたのか、千尋があわてて
一歩後ろへ飛び下がる。
淡いピンク色のデティールの靴が、康平の目に飛び込んでくる。

 「どうぞ。散らかっていますが。
 五六の野菜で、なにかおいしい料理を作りますから」

 「はい。ありがとうございます!」

 よく通る明るい声の返事が、康平の耳へ心地よく響く。


(51)へつづく