「化身」 第三話
遠くから物音が聞こえてきた。それは地響きも聞こえる。
馬に乗っているのではない。走ってくるのでもない。祠の扉の前で物音は止まった。
菊はそれに気付き経を止め目を開いた。
「あなた様はどなたなのですか?」
菊は仁王立ちをしてる武士のような姿の男にそう話しかけた。
「怖くないのか?」
喋った!奴は人間だった。
作治は心が躍っていた。
「怖くはありませぬ。どうして私の村を襲ったりされるのですか?」
「襲ってはおらぬ。娘を貰いに来ておるのだ」
「同じことでございます」
「違うぞ。訳がある娘を探して居るのだ」
「何と申されますか。ではなぜ罪のない村人を殺すのでしょうか?」
「おまえたちが先におれたちの村を襲って全滅させたのだ」
「そのようなことは聞いてはおりませぬ。それにここの村人は善人ばかりです。起こりえないようなことを申されますな」
「百年も昔のことだ」
「百年?百年間探していると言われるのですか?」
「違う。封印が解けたのだ。この先にある我々の祖先が代々住んでおった場所を焼き討ちされたとき、あまりの怨念にわしは鬼となって甦ったのだ。おれを殺すことは出来ないぞ。お前がわしの探している娘かどうか試させてもらう。すまぬが食べさせてもらうぞ」
「待ってください。命乞いはしませぬ。娘を探していると言われましたね。百年も経って生きているとは思いません。どういう事でしょう?」
「娘も封印されておるのだ。ここの村の誰かの身体の中にその怨念が閉じ込められておる」
「それはまことですか?」
「まことじゃ。子供から孫へ伝わっておるはずじゃ」
「どうして一度にみんなを食べてしまわないのですか?」
「わしの命は永遠なのだ。それに人間を食べると一年は体が鬼から元に戻ってしまうので間を空けるしかないのじゃ。もし娘の怨念に出会えたらわしたちは元の村へ帰って人間に姿を変える。それまでは続けなければならぬ宿命なのだ」
「聞かせてください。食べずに娘さんの怨念が封じ込まれている人を探すことは適わぬのですか?」
「適わぬ」
「ではわたくしをお食べ下さい」