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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「化身」 第三話

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座る後ろ側に床板が外せるようになっているところを菊に見せた。

「ここに隠れているというのですね」

「そうだ。お前の悲鳴を聞いたら飛び出す」

「わたくしは決められた運命に従うだけです。作治さまはなぜ命を粗末にされまする?」

「ふん、なめられたものだな。この村一番の男だと思っているんだぞ。命が惜しくてこんなこと考えられるか。それに菊が不憫だから一人では死なせぬ」

「それはまことでございますか?」

「ああ、まことだ。菊の美しさに心底惚れている」

「そのようなこと・・・」

「なあ菊、上手くいって二人とも命が助かったら夫婦になってはくれまいか?」

「夫婦に?・・・うれしゅうございます」

「そうか!よ~し、これは死ぬわけにはゆかんぞ」

作治は菊の目を見て微笑んだ。浅黒いその顔は決して男前ではなかったが菊の心を捉えていた。
時間が来た。
袋からトリカブトの粉を取り出して、薄く糊を混ぜた米のとぎ汁に混ぜた。かき回すと白く粘り気のある液体になっていた。
ここからは取り扱いを慎重にしなければならない。

「菊、これは猛毒だ。目に入ったり、口に着いたら終わりだ。手拭いで顔を覆いなさい」

言われる通りにした。

「恥ずかしいだろうがこれも役目だ。裸になりなさい」

真っ白なしみ一つない菊の身体が作治の目に入った。
幼いとはいえ女としては十分な身体に見えていた。
首から下へと刷毛でとぎ汁を塗ってゆく。膨らみかけている乳房を手で確認するように塗る。腕と両足に塗った。
最後は慎重に薄毛の丘から股間の女性の部分と肛門を避けて塗り終えた。
しかし、うつぶせにして背中を塗ることを忘れていた。

「恥ずかしかったろう。すまぬな」

「いえ、心を決めておりますゆえお気遣いなく」

「菊は稀に見るおなごじゃな。美しいだけではなく、覚悟も出来ておる」

「もう夕暮れじゃ。おれは弓矢を携えて床下へ隠れるぞ。入り口の扉を開くぞ。寒いがしばらく我慢しろ」

「はい、作治さま。南無阿弥陀仏・・・」

大晦日の太陽が西に沈みかけている。
薄暗くなってきた村里に運命の時間が近づいてきた。
村人たちは雨戸を閉め、火を焚き、それなりの覚悟を決めてその時をじっと待っていた。

「来るなら来い!」

心の中で自分を励ます気合を入れる。作治の頭の上には菊が正座している。
入り口の半開きの扉が風で音を立てている。ぎ~という音と、バタン!と言う閉まる音が時折聞こえる。
菊は目を閉じていた。そして般若心経を口ずさんでいる。

「魔訶般若波羅蜜多心経~かんじーざいぼーさつぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじ・・・」
作品名:「化身」 第三話 作家名:てっしゅう