走馬灯モニタールーム
「浮気する男なんて最低!!
死ねばいい! いやもう死んで!!」
彼女が振り上げた包丁へとっさに手を出したが意味なかった。
手の甲を切りつけられ、
痛みに倒れたところで心臓にぶすり。
清楚でおとなしいところに惹かれて
付き合った彼女に刺されて死んだ。
こんな一面があるなんて思ってもみなかった。
※ ※ ※
目を覚ますと、モニターが
上下左右に山積みにされている部屋に座らされていた。
「お目覚めですか。
あと、1時間であなたは死にます」
「それより、ここはどこなんだよ!?」
「走馬灯モニタールームです。
あと1時間の間にこれまでの走馬灯を見てもらいますが
1時間しかないので複数のモニターで一気見してもらいます」
男がスイッチを押すと、
すべてのモニターに光がともり
はじめてこの部屋に明かりが生まれた。
「1時間後、迎えに来ます。
それまでは、これまでの人生を振り返ってください。
ああ、それとモニターには絶対触れないで」
男は部屋を出てしっかり鍵をしめた。
「……しょうがない。見るか」
あるモニターには俺の幼少時代。
あるモニターには俺の中学生時代。
あるモニターには俺の社会人時代。
あるモニターには……真っ暗。
「なんだこれ? これだけ故障してるのか?」
ひとつだけある真っ黒のモニターが気になって近づいた。
ついクセでモニターに触れてしまった。
ちゃぷん。
まるで水に浸すような感覚とともに、
モニターの中に指が入ってしまった。
「わっ! このモニター……入れるのか!」
今度は右手を暗闇のモニターに突っ込む。
向こうから見たら巨大な手が伸びてくるように見えるのか。
なんだその逆・貞子。
「……ん? なんかあるぞ」
手を引き抜いてみると、
暗闇の中から1台のスマホが出てきた。
俺のスマホじゃない、いったい誰の?
それを見て思い出した。
「あーあ。死ぬ前に俺のスマホを
彼女に見せられたらなぁ。誤解も解けたのに」
人生って皮肉だ。
たかがスマホ一台で生死を分けるんだから。
「しっかし、モニターに触れちゃったけど大丈夫かな?
後で地獄行きが決まったりしないかな?」
監視カメラを探してもない。
電球すらないモニターだらけこの部屋なんだ、バレないだろ。
……でも、だったら、どうしてわざわざ釘を刺したんだ。
ふと目についたモニターには、
まさに俺が刺殺される場面が映っていた。
「……これ、もしかして。
俺が死なないようにできるんじゃないか?」
慌ててほかのモニターに目を凝らす。
右から2番目のモニター。
画面には、必死に彼女を追いかける俺の姿。
「思い出した。
殺される前日に、俺は浮気を疑われたんだ。
それでスマホを見せて誤解を解こうと追いかけていたんだ」
でも、結局スマホは見せられなかった。
それはたしか……。
「人とぶつかったんだ!!
それで、スマホを落として壊したんだ!」
追いかけて、スマホが壊れて、誤解も解けずに終わった。
そして翌日に殺される。
モニターには慌てて追いかける俺の姿と、
曲がり角から迫る自転車が映っている。
「この自転車がなければ!!」
モニターに手を突っ込んで、自転車をつまんで動きを止めた。
モニターに映る俺はぶつかることなく曲がり角を進んだ。
スマホも無事だ。
俺は安心してモニターから手を引き抜いた。
「よし、これで彼女の誤解を解くことができるぞ」
再び殺される走馬灯モニターに目を戻す。
やっぱり俺は殺されていた。
「なんで!? 誤解解けたはずだろ!?」
モニターには、誤解を解くためにスマホを見せて
その結果、彼女に刺されていた。
俺めちゃくちゃ痛そう。
『このスマホ……あなたのじゃないわ!
やっぱり浮気していたのね! そうなのね!
きっとそのスマホも浮気女のものなのよ!』
「あ゛……」
思い出した。
思い出してしまった。
彼女とケンカする数時間前。
俺は男友達の家で友達と妹とゲームをしていたんだった。
それを浮気だと誤解されてケンカになったんだ。
おそらく、友達の妹のスマホを取り違えてしまった。
俺のスマホには
男友達とのゲーム約束の履歴が残っているのに。
「人とぶつかって壊したスマホは
そもそも、俺のスマホじゃないってことか! ちくしょー!」
ようは、取り違えさえなければいいんだろ。
俺がちゃんと俺のスマホを持って帰れればいい。
「あった! あのモニターに映ってるのは、
取り違えたときだ!」
左から2番目、上から14番目のモニターには
最新のゲームに興じる俺と、男友達とその妹。
夢中になっている俺たちの背中側に
俺と友達の妹の2台のスマホが雑に置かれていた。
「取り違えさえなければ、
刺される前に誤解を解くことができる……!
そうなれば俺も死ぬことはない!」
俺はモニターに手を突っ込んで、
取り違える原因になった妹スマホを引き抜いた。
これでもう殺される心配もない。
また俺の最後のシーンのモニターに目を戻す。
『あのー、私のスマホ、間違って持って帰ってません?
家をいくら探しても見つからなくって』
『なによこの女! やっぱり浮気してたのね! ぶすり!』
やっぱり俺は殺されていた。
なんてこった。
妹スマホを俺が抜き取ったせいで、
今度は妹がスマホを探しに俺の家にやってくるなんて。
これじゃ浮気と疑われても仕方がない。
「早くこの妹スマホを戻さないと!」
さっきの友達の家が映っているモニターに目を戻す。
俺はもう友達の家から帰っていた。
あとは妹スマホを元通りに戻せば、
スマホを探しに来られることもない。
「これで、万事解決だ!!」
モニターめがけて妹スマホをシュートした。
ブゥゥゥン……。
その瞬間、すべてのモニターの電源が切られ部屋は真っ暗に。
俺の投げつけたスマホはモニターにはじかれて、
暗闇の部屋のどこかにむなしく落ちた。
ドアの開く音が聞こえて、男がやってくる。
「1時間経ちました。それでは行きましょう」
「待ってくれ!! 10秒……いや1秒でいい!!
もう一度モニターの電源を入れてくれ!
それだけでいいんだ!」
そうすれば妹スマホを戻すことができるのに!
「ダメです。走馬灯は一度きりです。
私に逆らえば、あなたを地獄に永住させることもできるんですよ」
「ぐっ……」
俺はしょうがなく男にしたがってモニタールームを出た。
「では、鍵を閉めるので待っててください」
男が俺に背を向けて扉の鍵を閉め始めた。
その尻ポケットに、モニターのリモコンが見えた。
今なら……。
「なっ! なにをするんです!!」
俺はリモコンを抜き取り、男を蹴とばした。
まだ部屋に鍵はかかっていない。
扉を開けて、何も見えない真っ暗な部屋に飛び込む。
「電源……電源はどこだちくしょう!!」
リモコンのボタンを押しまくる。
けれどモニターは点灯しない。
男が起き上がったそのとき。
ブゥゥゥン。
モニターが一気に点灯して部屋が明るくなった。
「あっ……」
死ねばいい! いやもう死んで!!」
彼女が振り上げた包丁へとっさに手を出したが意味なかった。
手の甲を切りつけられ、
痛みに倒れたところで心臓にぶすり。
清楚でおとなしいところに惹かれて
付き合った彼女に刺されて死んだ。
こんな一面があるなんて思ってもみなかった。
※ ※ ※
目を覚ますと、モニターが
上下左右に山積みにされている部屋に座らされていた。
「お目覚めですか。
あと、1時間であなたは死にます」
「それより、ここはどこなんだよ!?」
「走馬灯モニタールームです。
あと1時間の間にこれまでの走馬灯を見てもらいますが
1時間しかないので複数のモニターで一気見してもらいます」
男がスイッチを押すと、
すべてのモニターに光がともり
はじめてこの部屋に明かりが生まれた。
「1時間後、迎えに来ます。
それまでは、これまでの人生を振り返ってください。
ああ、それとモニターには絶対触れないで」
男は部屋を出てしっかり鍵をしめた。
「……しょうがない。見るか」
あるモニターには俺の幼少時代。
あるモニターには俺の中学生時代。
あるモニターには俺の社会人時代。
あるモニターには……真っ暗。
「なんだこれ? これだけ故障してるのか?」
ひとつだけある真っ黒のモニターが気になって近づいた。
ついクセでモニターに触れてしまった。
ちゃぷん。
まるで水に浸すような感覚とともに、
モニターの中に指が入ってしまった。
「わっ! このモニター……入れるのか!」
今度は右手を暗闇のモニターに突っ込む。
向こうから見たら巨大な手が伸びてくるように見えるのか。
なんだその逆・貞子。
「……ん? なんかあるぞ」
手を引き抜いてみると、
暗闇の中から1台のスマホが出てきた。
俺のスマホじゃない、いったい誰の?
それを見て思い出した。
「あーあ。死ぬ前に俺のスマホを
彼女に見せられたらなぁ。誤解も解けたのに」
人生って皮肉だ。
たかがスマホ一台で生死を分けるんだから。
「しっかし、モニターに触れちゃったけど大丈夫かな?
後で地獄行きが決まったりしないかな?」
監視カメラを探してもない。
電球すらないモニターだらけこの部屋なんだ、バレないだろ。
……でも、だったら、どうしてわざわざ釘を刺したんだ。
ふと目についたモニターには、
まさに俺が刺殺される場面が映っていた。
「……これ、もしかして。
俺が死なないようにできるんじゃないか?」
慌ててほかのモニターに目を凝らす。
右から2番目のモニター。
画面には、必死に彼女を追いかける俺の姿。
「思い出した。
殺される前日に、俺は浮気を疑われたんだ。
それでスマホを見せて誤解を解こうと追いかけていたんだ」
でも、結局スマホは見せられなかった。
それはたしか……。
「人とぶつかったんだ!!
それで、スマホを落として壊したんだ!」
追いかけて、スマホが壊れて、誤解も解けずに終わった。
そして翌日に殺される。
モニターには慌てて追いかける俺の姿と、
曲がり角から迫る自転車が映っている。
「この自転車がなければ!!」
モニターに手を突っ込んで、自転車をつまんで動きを止めた。
モニターに映る俺はぶつかることなく曲がり角を進んだ。
スマホも無事だ。
俺は安心してモニターから手を引き抜いた。
「よし、これで彼女の誤解を解くことができるぞ」
再び殺される走馬灯モニターに目を戻す。
やっぱり俺は殺されていた。
「なんで!? 誤解解けたはずだろ!?」
モニターには、誤解を解くためにスマホを見せて
その結果、彼女に刺されていた。
俺めちゃくちゃ痛そう。
『このスマホ……あなたのじゃないわ!
やっぱり浮気していたのね! そうなのね!
きっとそのスマホも浮気女のものなのよ!』
「あ゛……」
思い出した。
思い出してしまった。
彼女とケンカする数時間前。
俺は男友達の家で友達と妹とゲームをしていたんだった。
それを浮気だと誤解されてケンカになったんだ。
おそらく、友達の妹のスマホを取り違えてしまった。
俺のスマホには
男友達とのゲーム約束の履歴が残っているのに。
「人とぶつかって壊したスマホは
そもそも、俺のスマホじゃないってことか! ちくしょー!」
ようは、取り違えさえなければいいんだろ。
俺がちゃんと俺のスマホを持って帰れればいい。
「あった! あのモニターに映ってるのは、
取り違えたときだ!」
左から2番目、上から14番目のモニターには
最新のゲームに興じる俺と、男友達とその妹。
夢中になっている俺たちの背中側に
俺と友達の妹の2台のスマホが雑に置かれていた。
「取り違えさえなければ、
刺される前に誤解を解くことができる……!
そうなれば俺も死ぬことはない!」
俺はモニターに手を突っ込んで、
取り違える原因になった妹スマホを引き抜いた。
これでもう殺される心配もない。
また俺の最後のシーンのモニターに目を戻す。
『あのー、私のスマホ、間違って持って帰ってません?
家をいくら探しても見つからなくって』
『なによこの女! やっぱり浮気してたのね! ぶすり!』
やっぱり俺は殺されていた。
なんてこった。
妹スマホを俺が抜き取ったせいで、
今度は妹がスマホを探しに俺の家にやってくるなんて。
これじゃ浮気と疑われても仕方がない。
「早くこの妹スマホを戻さないと!」
さっきの友達の家が映っているモニターに目を戻す。
俺はもう友達の家から帰っていた。
あとは妹スマホを元通りに戻せば、
スマホを探しに来られることもない。
「これで、万事解決だ!!」
モニターめがけて妹スマホをシュートした。
ブゥゥゥン……。
その瞬間、すべてのモニターの電源が切られ部屋は真っ暗に。
俺の投げつけたスマホはモニターにはじかれて、
暗闇の部屋のどこかにむなしく落ちた。
ドアの開く音が聞こえて、男がやってくる。
「1時間経ちました。それでは行きましょう」
「待ってくれ!! 10秒……いや1秒でいい!!
もう一度モニターの電源を入れてくれ!
それだけでいいんだ!」
そうすれば妹スマホを戻すことができるのに!
「ダメです。走馬灯は一度きりです。
私に逆らえば、あなたを地獄に永住させることもできるんですよ」
「ぐっ……」
俺はしょうがなく男にしたがってモニタールームを出た。
「では、鍵を閉めるので待っててください」
男が俺に背を向けて扉の鍵を閉め始めた。
その尻ポケットに、モニターのリモコンが見えた。
今なら……。
「なっ! なにをするんです!!」
俺はリモコンを抜き取り、男を蹴とばした。
まだ部屋に鍵はかかっていない。
扉を開けて、何も見えない真っ暗な部屋に飛び込む。
「電源……電源はどこだちくしょう!!」
リモコンのボタンを押しまくる。
けれどモニターは点灯しない。
男が起き上がったそのとき。
ブゥゥゥン。
モニターが一気に点灯して部屋が明るくなった。
「あっ……」
作品名:走馬灯モニタールーム 作家名:かなりえずき