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夜はふけて

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すれ違う車達は昨日へバイバイ。

ナビの青い糸に引かれて、ハンドルは夜霧を散らして行く。

この道はいつもの道。
だけど、誰かの夢の中かも知れない。


焚き火色した背の高い街灯は、貧血の海を泳ぐシーネットル。
オレンジ色の光の帯が行く先を妖しくくしけずる。


小雨でぬらりと艶めくガードレールは、車道という唇を噛む前歯のようだ。
ハーモニカに似た歯の隙間からはレクイエムの音色が吹き込み、夜更かしの車輪に絡みつく。


フロントガラスにまとわりつく水滴で景色はぼけて、白色灯が斜めに差し込むと天の川が流れた。
赤と緑に急いで点滅する小さな警告灯は、流れ星となったペテルギュウスの砕け散った残光。


長い坂の直線の両脇をかためる、白色LEDの一つ目達が言う。
「意識をもっと加速しろ。脂肉が飛び散るほどに」




さあ眠ろう。夜は染め上った。
世界中の寝息を束に仕上げた心地良い筆と、夜雲から借りた厚めの黒で、しっかり瞳に幕を引くのだ。
夜明けに目がくらむ前に。

作品名:夜はふけて 作家名:get紂