青い花
子供のころのじゃれあいをそのまま延長したように、気がつけば供寝をし、ハルが地上にいる間は一緒に住むようになっていた。バズが嫌なわけではない。集落の他の男たちのように、ハルを地上にしばりつけようとはしない。がさつなところもあるが、心は大らかでやさしい。
バズは不意に腕を強く引いて、ハルを胸の中に抱き込んだ。
「おかしいか。……ハルがここにいないと、心配でたまらない」
ハルは少し考えて、バズの陽光のにおいのする胸に接吻した。
「でも、わたしは交易の仕事が好きだ。バズが海を好きなのと同じだ」
「……わかってる」
潮風に吹かれてごわごわになった髪を腕の中に抱きしめる。ハルの心臓の上に、バズも接吻を返してくれた。
自分はたしかにこの男が好きなのだ、とハルは考えた。地下へ行くのをやめて、子を持つならバズしか伴侶はいないだろう。
それでもやはり数日後には、次の交易の準備をはじめるのだろうと思う。リダに贈る品物の支度をするとき、わくわくと震える胸の鼓動は、バズの腕に抱かれて感じるものとは違う。
長く冷たい氷の坂を下る間に、海も、太陽も、バズもハルの意識の中から抜け落ちる。リダに会い、わずかな言葉を交わし、真っ白な顔にうかぶ表情の変化を眺めることだけが、辛い行程の果ての喜びなのだ。
リダも自分と同じように思っていてくれたら、と思う。だからリダが青い花をくれたのがほんとうに嬉しかった。厚い皮手袋を外し、なまの肌でリダの両手を握りしめたかった。熱を知らない白い唇に、接吻したかった。そうすればリダは火傷を負い、自分は凍傷を負う。それがわかっていても思わずくらりとするほど、その思いは甘美だった。
バズは気づいているのだろうか。氷の国に、ハルの心をとらえる相手がいることを。だから地下へ行くのをいやがるのだろうか。地下から帰ったハルを、息もつけぬほどに抱きしめるのだろうか。
青い花は、真冬でない限り、地上に出せばその美しい結晶構造を保てなくなる。地上は温度が高すぎるのだ。寒冷地か、常に氷を用意できる金持ち以外には鑑賞できないはかない花なのである。
リダからもらった花は、水を満たした硝子壜につめて一番深い井戸に沈めた。それでももうそろそろ、結晶は崩れてしまうだろう。
ハルは男の肩越しに月を見上げた。真っ白な月は、リダの肌に似ている。