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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 問題の3等空佐は、一年前の春に直轄チームに着任し、在階級年数の関係から、先任の職に就いた。本来ならば、自身の担当業務と並行して、各メンバーの管理を担いつつ班長を補佐しなければならないのだが、不幸なことに、当人は、中央で勤務させるには著しく能力が低く、先を見通して行動できないタイプだった。更には、プライドばかりが妙に高く、的外れな主張をごり押ししては、直轄チーム全体を無駄に振り回す有様だった。中でも、当時チーム最年少で、中央勤務も初めてだった富澤が一番の被害者となった。
 見かねた第1部長の日垣が再三この先任を指導したが、全く改善する兆しがなかったため、結局、着任の数か月後に、当人を空自側に突き返すことにしたのだという。

「ところがさあ、その問題児が、実は、空将補(空軍少将相当)サマの親族でね。後で、日垣1佐とそのおエラさんが大喧嘩になったんだって。…という説明で合ってる?」
 宮崎に肩を叩かれた富澤は、角ばった顔を不愉快そうに歪めて頷いた。
「あの一件では、日垣1佐には本当に申し訳ないことしたよ。将官相手に、戦わせてしまったようなもんだから」

 統合情報局を含む統合機関に勤務する制服組の人員は、陸海空の各自衛隊から提供される。人事権はあくまで出身元の各幕僚監部が握っており、統合機関に配属された人間は、数年で再び各自衛隊組織へと戻っていくのが通例だ。したがって、出身元の将官と対立するのは、日垣のキャリア上、当然好ましいことではなかった。

「別に富さん一人の問題じゃなかったんだし」
 富澤を「富さん」と親しげに呼んだ宮崎は、美紗から憂い顔の3等陸佐へと視線を移した。
「うちの部長は、無能なコネ付き野郎は許さないタチだから、どうあっても同じ結末になったんじゃない? それに、あのヒトの信望者は部内にたくさんいるから、大丈夫だよ」
 宮崎は、富澤のクリーム色の解禁シャツの襟をつつくと、つまんないこと気にしちゃだめよ、とまたオネエ言葉になった。二人は、制服と背広という異なる立場ながら、年が近いせいか、かなり気心知れた仲のようだった。
「結局、問題児を追い出すために、日垣1佐はうちの副局長まで引っ張り出したらしいんだ。副局長、見たことある? 結構お腹出てる恵比須顔の人だけど」
 美紗は、遠目に一度だけ見た統合情報局副局長の姿を思い出した。宮崎の表現するとおり典型的なメタボ体形の副局長は、内局の審議官を兼任する文官で、いわゆる「高級官僚」と位置付けられる人物だった。防衛省の内外で、絶大な権限と幅広い人脈を持っている。