小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

INDEX|3ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 


 富澤の声は珍しく怒気を含んでいた。普段、隣にいる新入りの美紗に仕事のアドバイスをする時の口調とは、明らかに違っていた。しかし、片桐はそれに全く気付かず、さらに不満を口にした。
「勉強時間がたくさん取れる人はいいですけどね。ここ残業多いから、九時五時勤務の同期に比べたら、僕はかなり不利ですよ。だいたい、尉官の僕がここに来る羽目になったのは、日垣1佐と喧嘩したっていう前任者のせいでしょ。ほんと、ツイてないんだから」
「ツイてるだろ。そのアホのおかげで、未来の空幕長(航空幕僚長)と目される人に勉強見てもらえるんだぞ」
 険悪なやり取りが始まり、美紗は困った顔で富澤の向こう側にいる宮崎を見た。お洒落にスーツを着こなす部員は、キャスター付きの椅子に座ったまま、その椅子ごと美紗のほうに近寄ってきた。
「うちもさ、今でこそこんなガヤガヤやってるけど、去年の春あたりは、その『アホ』ってのがいたせいで、大変だったらしいよ。僕も、片桐1尉とだいたい同じ時期にここに来たから、直接修羅場を見たわけじゃないんだけどね」
 宮崎は、銀縁眼鏡を光らせると、さらに美紗のほうに顔を寄せて、ひそひそと話した。
「ホントは、『直轄ジマ』の空自ポストは3佐相当で、片桐1尉の前任者も3佐だったんだ。だけど、そいつは中身が階級と合っていない、いわゆる問題児だったらしくて」
「何が問題だったんですか?」
 美紗は思わず心配顔になった。自分もその「問題児」に当てはまる言動をしていないかと不安になった。何しろ、業務支援隊に所属していた二か月前は、第1部長の日垣に『噂のカウンターパート』と、良くない意味で記憶されていた経緯がある。
 美紗の疑問に答えたのは、片桐との険のある会話を中断した富澤だった。
「宮崎さん風に言うなら、無能、無責任、おまけに階級主義。三拍子そろって、ホント最悪だった」
 富澤は、当時のことは思い出したくもないという様子で吐き捨てるように言うと、ますます仏頂面になった。代わりに、再び宮崎が事の顛末を美紗に解説した。