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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 長身の第1部長は口元に冷たい笑みを浮かべていた。ターゲットを追い詰めた時の、勝利を確信したような目つき。これが、彼の「本当の姿」なのか。
 美紗は、二、三歩下がると、さっと身を翻した。自由に行動するクリアランスを持たないまま秘匿性の高いエリアに閉じ込められている身では、自力で建物の外に出る手段はない。しかし、そんなことすら完全に忘れていた。ただ、目の前の日垣貴仁が、怖い。
 彼の視線から逃れるように背を向け、足を一歩踏み出そうとした瞬間、恐ろしく強い力が左腕を掴んだ。脇に抱えていた書類ケースが下に落ち、人気のない階段に派手な音が響いた。
「ずいぶん不用心なスパイだな。振り向きざまに下の踊り場まで落ちるところだったぞ」
 日垣は、今にも階段を踏み外しそうな美紗の身体を軽々と引き戻すと、そのまま壁際へと突き飛ばした。白黒のチェック柄のワンピースの裾がふわりと舞った。よろめいた美紗の背中に冷たい壁が当たる。顔を上げると、仁王立ちになった男が完全に美紗の逃げ道をふさいでいた。
「私は……、何も、してません」
「なら、逃げる必要はないだろう」
 日垣は、美紗に一歩近寄ると、壁側を向いて両手をつくよう求めた。
「悪いが、他に妙な物を持っていないか、調べさせてもらう。さっきのUSBがダミーということもあるからな」
「そんな物、何も持って……」
「壁に向かって立て。足を肩幅に開いて、両手を壁につくんだ」
 抑えた声が有無を言わさぬ強さで迫った。美紗は、言われた意味を理解しないまま、ゆっくりと体を回し、壁のほうへ向いた。手をあげると、先ほど日垣に捕まれた左腕がつきんと痛んだ。
 日垣は無言で、華奢な体を軽くたたくように触れていった。大きな手が衣服の上から手際良く、しかし、あらゆる場所を容赦なく探っていく。一瞬の躊躇もないその所作は、美紗を明らさまに犯罪者として扱っていた。初めて受ける汚辱に、彼女の身体は小刻みに震えた。
強烈に湧き起こる恐怖と不快感で、気が遠くなる。足の力が抜け、体が崩れ落ちた。冷酷に自分を取り調べる男の声が何か言うのが聞こえるが、頭の中でそれが幾重にも反響して、意味を取ることができない……。