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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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「あの……、どこに、行くんですか?」
「次のセッションには松永が来る。奴は勘が鋭い。そんな顔をして、鉢合わせるわけにいかないだろ」
 日垣は、青ざめた顔で見上げる美紗に苛立たしそうに答えると、人気のない廊下を無言のまま進んでいった。

 やがて、二人は階段へとたどり着いた。地下六階の階段入り口は、しんと静まり返っていた。空調の音だけがやけに低く響く。自分たちの他に階段を上り下りする人間がいないのを確認すると、日垣は速足で階段を上り始めた。仕方なく、美紗も彼の後について上った。二人分の人間の靴音が、不安げにこだました。

 地下二階下の踊り場まできたところで、日垣は突然、美紗のほうに振り返った。
「どういうつもりだ」
 眉を寄せた厳しい顔が、厳しい口調で尋ねる。
「第五セッションが終わったら、すぐに部屋を出ることになっていたはずだ。比留川から聞いていなかったのか」
 美紗は何も答えられなかった。三階半分を駆けるように上らされてかなり息切れしていた。何より、普段とは全く違う上官の強圧的な態度に、完全に気が動転してしまった。
「いや、聞いてなかった、というのは不自然だな。私は、第五セッションの後、地域担当部の人間が全員エレベーターに乗るのを確認してから、対テロ連絡準備室に電話を入れて会議場に戻った。その時、君は、比留川の指示どおり、確かに部屋にいなかった。正確には、私には見えないところにいたわけだ。何をしていた」
「USBメモリを、落として、それを……探していて……」
 絞り出すような声で答える美紗に、日垣はさらに詰問する。
「USB? なぜそんなものを持ってくるんだ。中身は?」
「比留川2佐に……言われたんです。待ち時間に議事録を作って、USBメモリに保存して持ってくるようにと……。中はまだ空です」
「空のUSBを落として、それを探していたら部屋を出そびれた、と言うのか。もう少しそれらしい嘘を考えたらどうだ」
「嘘……?」
 美紗は驚いて顔を上げた。切れ長の目が鋭く美紗を睨んでいた。