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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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「『お客』の中にCIAが入っていたことは口外無用だ。それから、連絡チャンネルの件も、うちが主導権を握る目途が付くまで、警察の連中には伏せておきたい。向こうにいるうちのLO(連絡官)にも知らせるな。今のセッションの内容については、取りあえず、向こう側が喜びそうなネタをピックアップしていてくれ。私も後でそっちに顔出すから。今日中に話を詰めよう」
 相手は、「了解です」と短く返事をすると、会議場のテーブルの下に目をやることもなく、ドアの向こうへすっと姿を消した。やがて、数名の人間が廊下を歩き去る足音が聞こえ、部屋の出入り口付近に溜まる人間の会話は英語だけになった。
 日垣が内線で何か話すと、間髪を入れず、廊下を走る足音が近づいてきた。会議のロジを担当する事業企画課の職員のようだった。次のセッションとの間に設けられた二十分ほどの休憩時間に、「お客」の面倒を見ることになっているらしい。日垣がその担当者に手短に何かを指示すると、ややあって、再び複数の人間が廊下を歩く物音がした。靴音は徐々に遠ざかり、やがて、辺りは完全に静かになった。

 美紗は、ゆっくりと息を吐くと、頭を僅かに出して周囲の様子をうかがった。人の気配はなかった。日垣の姿も見当たらない。「お客」の一団と一緒にどこかへ行ったのだろうか。とにかく、部屋を出るなら今しかない。日垣がいなければ建物の外には出られないが、エレベーターホールの前にでもいれば、おそらく彼に会えるだろう。何と叱責されるか想像するのも恐ろしいが、先の会議中に他の出席者に見咎められるよりは、はるかにマシだ。

 そろりとテーブルの下から身を出しかけた。途端に、美紗は誰かに右腕を掴まれ、勢いよく引っ張り出された。悲鳴を上げる前に、骨ばった手が口をふさぐ。剣のある低い声が、耳元でささやいた。