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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 椅子の脚の間から、人の足だけが見える。目の前にいる濃紺のスラックスが日垣であることだけは分かった。出入り口にほど近いテーブルの下に潜む美紗の姿を、他の人間の視線から隠すかのように、椅子のすぐ脇に立っている。
「カーネル・ヒガキ。少しいいですか」
 米国海軍の白い制服が立ち止まった。日垣が愛想よく応答すると、「お客」一行の筆頭とみられるその人物は、「先程の専用連絡チャンネルの件なのですが……」と声を落とした。そこに深緑色の制服が近寄ってきた。声からすると、対テロ連絡準備室長の2等陸佐らしい。三人で、テロ関連情報を共有する方法について、ひそひそと話し合っている。美紗は、テーブルの天板を通して途切れ途切れに聞こえる彼らのやり取りを耳にしながら、声を立てまいと、ぎゅっと唇を噛んだ。
 美紗の焦りをよそに、日垣は、悠長に上級幹部同士の内緒話をした後、ようやく出席者達を促して部屋の戸口へと歩き出した。濃紺のスラックスがテーブルから離れると、部屋の照明光がテーブルの下まで差し込んできたような気がした。他の出席者たちが絨毯敷きの床を踏みしめる柔らかな物音が聞こえる。主要メンバーの三人の後に続き、大勢の脚が会議場の出口へと向かっているのが見えた。

 どうか振り向かないで

 美紗は祈るような気持ちで、幕板に張り付いた。


 彼らの足音は、ほどなくして、廊下を歩く硬い靴音に変わった。開いたままのドアの向こうで挨拶を交わすやり取りが聞こえる。ドアの近くに日垣だけが立っているのが見えた。出入り口そばの壁に取り付けられた内線で、どこかに連絡を入れようとしている。他の人間たちはようやく部屋を出てくれたらしい。
 美紗がほっと胸をなでおろし、テーブルの下から出ようと少し椅子をずらした時、対テロ連絡準備室長が不意に戸口に顔をのぞかせた。
「すみません、日垣1佐。今のセッションの最中……」
 美紗はぎくりと体を震わせた。再びテーブルの奥に身を隠そうとしたが、手足が凍り付いたように動かない。
「……米側から出た話、どこまで警察庁のほうに入れますか? 明日、あちらの連絡室と定例会合があるのですが…」
「少し『間引く』必要はあるな」
 日垣は、内線電話の受話器を手にしたまま、声を低めた。