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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 国内治安に関する問題は、海外の犯罪組織が関与するものであっても、原則的には警察の管轄である。そのような話を、なぜ防衛省の一機関である統合情報局が、海外の情報機関と討議しなければならないのか……。不思議に思いつつも、美紗は、ドアに一番近いテーブルの傍までたどり着くと、キャスター付きの大きな椅子を僅かに動かして、そのテーブルの下に身を隠した。
 美紗の潜む場所のひとつ隣のテーブルからモニター側にかけて、日本側の出席者が四人ほど座っている。人目に付かずに外に出るのは難しそうだった。なにより、部屋の一同に気付かれずにドアを開閉するのは、まず不可能だ。会議が終わるのを待つしかない。美紗は観念して身を丸くした。
 急に、日垣の声が明瞭に聞こえた。
「……以上が、件の組織の、我が国における活動の現状です。詳細は、この後、準備室長の藤原2佐が説明しますので、ご質問があればその時にお願いします。これをひとつのケーススタディとして、公安機関との協力の在り方について、貴国からご助言をいただければ幸いです。なお、この案件に関する情報は、いかなるものも、部外に流出しますと情報提供者の立場を著しく害する可能性がありますので、その点はくれぐれもご留意願いたく……」
 美紗は凍り付くような緊張感に襲われた。これから話題にあがろうとしている内容がどのような秘区分に該当するのかは分からないが、セキュリティ・クリアランスの取得手続きが終わっていない自分がアクセスしていい類のものでないことだけは、間違いない。
 少しの間をおいて、「対テロ連絡準備室長」と肩書を訂正された2等陸佐が、日垣よりややぎこちない英語で、相手国向けの詳細説明を始めた。美紗は、書類ケースを絨毯敷きの床の上に置くと、その場にうずくまって両耳をふさいだ。人の生き死にに関わるような、そんな恐ろしい話は聞きたくない。毎日、何食わぬ顔で美紗と顔を合わせながら、そのような生々しい案件に関与していた上官と高峰の「本当の姿」は知りたくない――。
 心臓の鼓動が体中に響いて、人の話し声はほとんど聞こえなくなった。胸が締め付けられるように痛み、息が苦しい。このセッションが終わるまで、物音ひとつ立てずに、テーブルの下でじっとしていられるだろうか。そう思ったとたん、別の恐怖感が美紗の頭の中に広がった。

 見つかったらどうなるのだろう。

 空調が効いているはずなのに、首筋を汗がつたうのが分かる。胸から胃のあたりにかけて、圧迫されるような違和感が生じ、それが徐々に、鈍い痛みに変わっていく。小さく呻きそうになって、美紗は慌てて両手で口元を押さえた。自分の息遣いが、部屋中に聞こえているのではないかと思うほど、やけに大きく感じる。呼吸を静めようとすればするほど、息苦しさは増していった。