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レイドリフト・ドラゴンメイド 第10話 カーリのパラドックス

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「用があるのはお前も同じだ! これを見ろ! 」
 それは、先ほど彼が持っていたA4紙だった。
 とっさにポケットに入れたため、ぐちゃぐちゃになっていた。

 シエロの前に突き付けられたそれは、真っ黒な写真だった。
 その中に、色々な方向に白く浮き上がる物が有る。
 それが、医療の授業で見たことがある形だと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
 それは、人間の手の骨。
 一度見つけてしまうと、1体や2体ではないことが分かった。
 それが写真全体に、整然と並んでいる!
 たちまちシエロの心臓が激しく波打った!

「この写真は、司令部の防壁の中をレーダーで撮影したものだ。これは一体何だ!? 」
 信吾が示す写真のわきに、縮尺を示す表示がある。
 だが、それは必要がなかった。
 他の骨格に対して、全体的に華奢で、小さな骨格がある。
 子供の骨だ。
「ひっ」
 それだけ、口から息が漏れた。
 シエロの心はさらなる焦燥にかき乱された。

 信吾は次に、カーリタースにも写真を見せた。
 だが、自称チェ連最高の科学者は、パニック状態に陥り、まともに話すことができない。
「答えないなら、我々は我々の憶測で動くぞ! 」
 信吾が叫んでいることは、実は危険な賭けだった。
 知らなくて当然のことを実行すると、誰にも成功は保障できない。
「この骨は、魔術学園生徒会の前に召喚された、異能力者達だ。おそらく、能力を細胞に依存するタイプの」
 それに対し、シエロはあるだけのエネルギーを集中し、答えを述べた。
「知らない! そ、そうだ、魔術学園生徒会は、どうしてそれに気付かなかった?! 達美には科学レーダーも搭載されていたはずだ! 」
 はっきりと、大きな声で。
 だが信吾の追及は止まらない。
「防壁の内部は、培養された異能力者の細胞で満たされている! そのせいで特殊な量子状態を持つ防壁が作られた! この内側には、テレパシーも透視能力もレーダーも役に立たない!
 この写真は、内部の細胞が死滅した、廃棄処分された防壁の物だよ! 」
 それに対し、シエロの答えはただ一つだ。
「知らない!」
 信吾の憶測は続く。
「量子状態を利用して、量子コンピュータとして使っているのかもな。防壁の内側には何がある!? 防壁へ向かうコードか配管はあるか!? 」
 それに対し、シエロの答えはただ一つだ。
「知らない! 知らない! 知らない!!
 最終防壁の向こうは、何も知らされてない!!! 」

 しばらくの沈黙があった。
 シエロとカーリタースはパニック状態。
 他の捕虜たちも同じような事を考えていた。
(たとえ、今助けたところで何になる? )
(ここまで外国軍に侵略されて、どうやって逃げる? )
(そもそも、この国の国力も底をついている。できることは何もない)
(異世界から、何らかの援助があるのか? いや、あったとしても、チェ連には資源らしい資源もない。見捨てられるのがオチだ)
 そんな深い絶望感が、医療センターに立ち込めていた。

 それでも、あきらめない者達がいた。
「ならば、知っている人に聞くしかないわね」
 赤いメイトライ5、ミカエルが信吾に話しかけた。
「最終防壁の向こうに居るのだろうな」
 信吾はそう言うと、シエロとカーリタースに向き直った。
「君たち二人に来てもらいたい。
 そして、中の人間に出てくるように、説得してもらいたい」
 意外なことに、先に話し始めたのはカーリタースだった。だが、すでに正気を失っている。
「誰が、誰を説得するって? 」
 そして、笑いながら話し始めた。
「お前達は次元を超えた実効支配をしていない! 我々はしている!
 だから必要な実験体を召喚できる! 防壁は実験動物の再利用―」
 
 次の瞬間、シエロの拳がカーリタースを殴り、スキーマにしっかりと捕まえられた科学者は衝撃をもろに食らって気を失った。
 シエロには、チェ連の言う実効支配の概念がわからなくなった。
 相手が何も知らない、できないと決めつけ、略奪を繰り返す。
 わが軍は、そんな敵に異を唱え続けてきたのではなかったのか?
 だから、自分が知っているチェ連軍のやり方で動くことにした。

「これは魔術学園生徒会も知っていることですが、この基地では核弾頭ミサイルの発射管制も行っています。
 もし中枢ビルを物理的に破壊すると、スイッチア中にある核弾頭施設に発射信号を送るためのロケットが撃ちあがります。
 そして、あらかじめセットされていた目標に、核ミサイルが発射されます」
 自分でも驚くほど、シエロは落ち着いて話すことができた。
「あらかじめセットされていた目標って、具体的にどこ? 」
 銀のメイトライ5、イーグルロード、久 広美が訪ねた。
「科学技術を開発する学園都市、交通の要所。鉱山など。侵略者が拠点として使えそうなところ、すべてです」
 それを言いきった時、シエロの中に再び自尊心がむくむくと湧き上がってきた。
「そんな愚かなこと、絶対にさせたくない! 中枢ビルを無事に解放するためなら、力を貸しましょう! 」
 それを聞いて、信吾の緊張感が解けたようだ。
「なら、善は急げだな。すぐ防護服を借りよう! 防壁の一部から中身が漏れ出しているからな」
 そして、世界をあるべき姿に戻す作戦が、今始まろうとしていた。
 していたのだが。
「待ってください。達美達が壊滅させたはずのチェ連軍の航空戦力が現れました。核爆弾を運搬しています」
 止めたのは、オウルロードだ。
「また、わたくしたちを歓迎するために集まった市民たちが、銃火器を用いて街に火を放っています。フセン市からの増援は不可能です」