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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「隣人」 第一話

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田中祐介が名古屋市内にあるアパートに引っ越ししてきたのは22歳の冬だった。
その日は友人たちに引っ越しの手伝いをしてもらい、夕飯を済ませて大好きだった麻雀をやろうとこたつを出して、テーブルを裏返して麻雀台として囲んだ。

お酒飲みながら、タバコ吸って夜遅くまでやっていたから気に障ったのだろう。早朝になって隣の部屋の住人からドアーを叩かれ、いきなり入って来て、

「おまえらいつまで騒いでるんだ!うるさくて寝れなかったじゃないか。いい加減にしろ。今度やったら大家さんに言いつけて追い出すからな」

すごい剣幕でそう言い放った。

「なんだ、あいつ。そんな大声で怒らなくても、気になった時に穏やかに言いに来ればよかったのに。なんか腹が立つなあ~今頃言いに来やがって」

「田中、まあまあ、言わせておけよ。今度は雀荘でやろう」

気分を害した私を友人はそう言ってなだめた。
翌朝午前中にみんなが帰って行った部屋は食べ物と灰皿の吸い殻だけが残されていた。
一人で片付けをしていると、前の共同洗濯スペースに置かれてある洗濯機の前に女が立っていた。

それは隣のあの怒鳴り込んできた男の部屋から出てきたらしいので妻だろう。
今から洗濯をするのか。長い髪を束ねることもせずジャージ姿のお隣さんはその時は気にもしなかった。
週末の土曜日に銭湯から帰って来てベッドに入り寝ようとしたら、隣から音楽がかすかに聞こえてくる。

それは耳ざわりではないが、寝ようとする自分には気になる音量だった。
次の土曜日も聞こえてきた。気にすると気になる。そして毎回流れる音楽は同じなのだ。
これは変だと気付き壁に耳を当てて隣の音を聞く・・・

音楽が小さくなった時にかすかに女の喘ぎ声が、いやそのように聞こえてしまう声が聞こえるのだ。

「やっている」

そう感じられた。こうなったら聞いてやろう、そう考えてコップの底に耳を当て、反対側を壁につけてその時間に盗聴した。

「あっ・・・あっ・・・いい~」

そう聞こえた。

「くそう、いい思いしやがって・・・どんな女なのか見てやろう」

そうつぶやいて悶々とする自分自身を慰めて寝た。
水曜日休みの私は朝から一週間分の洗濯をする。共同の洗い場になっているから早く洗って干した方が勝ちとなる。

隣りは出てこない。共稼ぎで留守をしているかも知れないと思った。
郵便配達の人が小包を持ってきて、隣のドアーをノックした。
洗濯を干しながら配達員に留守なんじゃないのと声掛けると、これ預かって渡してくれませんか、と頼まれた。

何でも二度目でまた留守となると差出人に帰さないといけなくなると困り顔だった。

「いいですよ。預かって帰って来られたらお渡しします」

そう返事すると大喜びで手渡され、送り状にサインを求められた。
小包の差出人は篠原隆一、宛先は大杉美枝子となっていた。

「美枝子っていうんだ」

そうつぶやいて帰ってきたら渡そうと家に持ち帰った。
夕方になって隣のドアーが開く音がしたので、小包を持ってノックした。

「はい、どなた?」

「田中です。預かり物持ってきました」

「はい、どうぞ・・・ありがとうございます」

「これ郵便局の人から二度目なので差出人に帰すと言ったから、預かりますと言って貰いました」

「それはご親切にお礼の言葉もありません」

美枝子は受け取って頭を下げた。よく見ると可愛い。いや美人と言うべきだろう。
スリムで色白で髪が長い。自分の理想に近い女だと感じた。
作品名:「隣人」 第一話 作家名:てっしゅう