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センチュリア ~閑話~

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 けれど辿り着いたところでその場所に〝リイラ一家が住んでいた過去〟はない。あるのはただ赤の他人が暮らし、あるいは通り過ぎ、捨て去った町があるだけなのだ。
 それでもリイラは、脳裏にかすかな面影を残す砂漠の町を、この目で見てみたかった。過去と現在が交差して絡み合った上に存在している、という奇妙な立場の自分に、何らかの決着をつけたいのかもしれない。
 くうん、と甘えたような鳴き声が聞こえ、リイラはふと視線を下ろす。シュウはきちんとお座りをして、リイラを見上げている。
「お前も、そんなかわいい声出せたんだね」
 からかうように笑ってもシュウが気を悪くした様子はなかった。そもそも狼が人の言葉の細部まで理解しているかもわからない。仮に理解し、シュウが不機嫌になっていたとしても、表情だけでそれを読み取ることはリイラにはできなかった。
 センにならできるかもしれないけれど、と思いながらも彼女はこう言うに留める。
「帰ろっか。センとコウも待ってるしね。お腹すいちゃった」
 欄干を離れてリイラは歩き出す。それに歩調を合わせてシュウも足を進めた。
 大小二つの影が夕日に照らされ、人波の中に長く伸びていった。      




作品名:センチュリア ~閑話~ 作家名:わさび