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奴隷

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穴蔵の奥底に、腕が見えた、あれがきっとエスティレードだ。助けを求めるようにゆらゆらと手を動かしている。彼女はまだ生きている。
「ヴァシル様、よくご覧ください! ネズミが屍を食いちぎっているんですよ。それに、あれはエスティレード様ではございません。先ほど放り込んだ別の奴隷です」
よく見ろ、と執事が指し示す。そこでヴァシルが見たのは、腐った肉を食い荒らすネズミの群。そして、なぜ死んでしまうほどに虐待されなければいけなかったのかという、恨みがましい、苦悶の表情を残したまま、事切れ、ヴァシルをにらみつけている、屍の山。
「……っ!」
急激にこみ上げてきた、胃がねじ切れるかと思うほどの吐き気に、胃の中のものをすべてその場にぶちまけた。
あれは、エスティレードではない。あれは、ヴァシルが散々いたぶり尽くしてきた者たちだ。
ヴァシルを散々ののしり、事切れていった者たち。
エスティレードは言った。自分は人を玩具のように弄び、壊れれば飽きて捨てるような子供だと。
あれは、そうやって自分が玩具のように壊し、捨ててきた人間の山ではないか。怨念ではないか。
「ともかく、部屋へ」
追いついてきた護衛の奴隷たちがさらにヴァシルのからだを穴から引きはがし、半ば抱えられるようにして連れて行かれる。
だが、その中で、地下の調教部屋に居る奴隷たちと目があった。ある者はおびえ、ある者は怒り、憎しみのまなざしを、ヴァシルに向ける。
「私はいったい、なんという、ことを……」
ヴァシルは泣いた。
そんな風に泣いたのは、人生において初めてのことだった。
ザフォルを失い、エスティレードを失って、初めて、自分の愚かさに気がついた。
それからヴァシルは泣き暮れた。
そして憔悴し、疲れ切って、一つの思いにたどりついた。
エスティレードが繰り返しヴァシルに言った。
償え、と。
しかしどうすれば、自分の犯したあまりにも大きすぎる過ちを償うことができるのかと。
ヴァシルが決めたのは、その身を奴隷に落とすことだった。
同じように、苦痛を味わうことだった。
しかし、出会いがヴァシルの心を再び変えた。
苦痛は、つらかった。耐え難かった。誰もそばにいないという孤独は、あまりにも寂しすぎた。
そしてそんなヴァシルに手を差し伸べた主人は、余りに温かく、優しかった。

作品名:奴隷 作家名:日々夜