エースを狙え
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そんなこんなを話している内にこのスカウトの事を思い出した。蒲田猛…確か母がファンだった人だ。圧倒的な実力で打者を捩じ伏せる。今でいう箕輪太輔のような投手だったはず。だが肩を壊し手術失敗と共に選手として限界を感じひっそりと球界を去ったと聴いた。
その後何があってここにいるのか…
「…何でスカウトなんてやってるんですか?」
「は?」
「思い出しただけ。蒲田猛、母がファンだったんだよ。だから西武球場には何回か行ったことがある。凄い狭い球場だったが神宮に比べたら広かった。環境は最悪だったが…」
「確かに」
「監督とかコーチとか出来るでしょ、実績死ぬほどあるんだし…それなのにスカウトって…」
「ガッカリしたか?」
「…正直、はい…」
「俺はお前に対してガッカリしてるがな」
「何で…」
「母親の死は同情する。俺も自分の母親が死んだ時はかなり参ったからな…でもだからと言ってお前がプロを諦める理由にはならない。それは言い訳だ」
「…っ!」
「お前には才能がある。能力がある。頭脳もある」
「甲子園に行けなかったのに?」
「甲子園に行けなかったから何だ?シューズの箕輪だって甲子園に一度も行けなかったが今や日本のエースにまで登り詰めたぞ?」
「皆が皆、そんな風になるとは限らない…俺はそんなタイプじゃないし」
「そうか?」
「そうです」
蒲田が腕時計を見た。
そして溜め息を吐く。
「今日はここまでだな…後はお前次第だ」
「…………」
そう言って蒲田猛は帰って行った。