エースを狙え
スカウト
俺は自分の情けなさに絶望した。
もう後10日足らずで今年のドラフトが始まるというのにプロへの決心を決めかねていたのだ。
「はぁ…」
思わず溜め息が出た、自分に対してだ…
決めかねていた俺は取り合えず外へ出た。
学校は休みだったが暇すぎたのでグラウンドへ行った。グラウンドには野球部の後輩達が来年に向けて練習をしている。とても懐かしく思えた。
そして羨ましかった。
「はぁ…」
また溜め息が出た。
やっぱり帰ろうと思った時、声が聴こえた。
「佐熊昇だろう、お前」
俺は声がした方に振り向いた。
30代くらいのスーツを着た男だった。
体格がいいので威圧感が少し出ていた。
何の用だろうか?というか、何処かで見たことあるような……
「そうだけど…誰?」
「今の若い奴は知らないか…俺はシューズのスカウトの蒲田猛ってもんだ。ほら名刺だ」
「どうも…え?シューズってプロの?俺、まだ出してないですよ?提出届け」
「何で出さない?」
「プロに行ったって成功するとは限らないし…」
「大学か?」
「それは迷ったけど今はもう無いですね」
「じゃあ社会人か?」
「働けますし、野球だってやろうと思えば出来るし…」
「プロは嫌か?」
「……別に嫌じゃないけど…母が死んだんです」
一瞬空気が止まった気がした。
「はあ…そうか、悪かった…」