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エースを狙え

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「さ、次はいよいよ佐熊の番だな」

「…はい」

「ま、気楽にな」

「…はぁ」

紅チームはグローブを持ってグラウンドへ向かう。
3球ほど軽く捕手の矢代さんとキャッチボールをする。
やっぱりマウンドに立つと全然違う。視界がまず違う。緊張感が違う。そしてここからしか見えない景色がある。でも今はそれを忘れ、表情を消す。
白チームの1番打者が来た。矢代さんのサインが出る。
1球目は、内角高め。
俺は頷き、振り被り投げた。

「ボール!」

あそこはボールなんだ…。
次は内角中間、投げた。今度は上手くコントロール出来た。打者は打ったが詰まった当たりでサードゴロとなり、まず1アウト。
2番打者が軽く素振りをして打席に立った。
威圧感がさっきの打者とは違う。緊張感が俺を襲う。
サインは内角低めストレート。
正直早くベンチに帰りたい。恐い打者だと思うが二軍選手らしい。だとしたら今年一杯は同じチームになるのか…そう思えば心強いかもしれない。今は敵だが……。
投げた。
相手打者は思いっきり振り抜いた。まさにフルスイング。一瞬球を見失ったが球はきっちり矢代さんのグローブの中に納まっていた。空振りだ。2球目は、中角低め。どうやらこの打者には低め攻めらしい。あんなスイングするのに低めが苦手なのは少し珍しいと思った。結果はまた空振りだ。3球目も空振りで三振だった。
3番打者の鷹城良(24)が出てきた。
これが一軍スタメンレベルかと思うほどの緊張感が漂った。さっきの打者も凄かったのにこの人は比べ物にならないほど遥か上をいく化物だ。

…怖い…

冷汗が出てきた。
嫌な感じだ。夏の予選決勝を思い出す。さっきの立華を思い出す。

…早く終わらせたい…

一瞬だけ息を止める。
そして鼻から息を吸い、口から吐く。

「はぁ」

普段の溜息ではない。
こんなに怖いのに、相手をしたくないはずなのに、何故だろう。どこかワクワクしている自分がいた。
1球目は内角低めストレート。
投げた。

(カキーン…)

快音が響く。
鷹城さんはベースを順番に走っていく。おまけに味方チームにガッツポーズをする始末だ。

…凄い…

…怖い…

…ああ、これがプロか…

…内角低めストレート、俺の一番得意なコースなのに…

完璧に打たれた。
打ち砕かれた。ソロとはいえホームランだ。
流石一軍の3番打者。何もかもが違うとしかいいようがない。こんな場所早く降りたいと思うと同時に、ああいいな。と思う自分も何処かにいた。取り合えずあのレベルと戦うには自分には足りない物が多すぎる。そんな事は分かっていた事だ。なのに何でだろう。

…悔しい…

相手はプロ6年目のチームの主力。打たれて当たり前なのに、悔しい気持ちが胸にきた。その後は4番にヒットを許すも5番をアウトに取り1回裏1失点で抑えた。

「どうだった?マウンドは」

「…悔しかったです…」

「そっか。悪かったなあそこにリード出して」

「…え?」

「あのコースさ、鷹城さんの得意コースなんだよ」

「……」

「でも佐熊の得意なコースもあそこだっただろ。だから仕方なかった。上手くいけば詰まらせられるって、そう思ったんだけど…ごめん、言い訳だな」

「……すいません…気を遣わせて、2回は必ず無失点に抑えます…」

俺の声は半ば泣きそうになっていたのはいうまでもない。
作品名:エースを狙え 作家名:本宮麗果