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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅴ

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「だって数日海を漂流して、貧民街に流れ着いて、教会に捕まって数日間牢屋に入れられて、悪魔教徒と戦って、教会の騎士と戦って、もうクタクタなんだよ。あっちこっち怪我してるし、美味いもの食ってゴロゴロしてもバチは当たらねえだろ。出来ないけど!」
 ヤケクソ気味にゼノは言い、深々と溜息をつく。しかし今の状況では、どう頑張っても『美味いもの食ってゴロゴロ』は叶いそうにない。肩を落とすゼノに、アルベルトは言った。
「ゼノ、疲れているなら休んでも構わないよ。食料探しなら俺がやっておくから」
「なに言ってんだよ! おまえだって疲れてるだろ。怪我も一番酷いんだからおまえこそ休んどけって!」
「い、いや、休息なら十分に取ったから大丈夫だ」
 険しい表情のゼノに詰め寄られて、アルベルトはそう言った。元々身体は頑丈な方で、睡眠時間も休息もそれほど必要ない。怪我も手当て済みなので、無茶をしなければどうということはない。皆スミルナでの戦いで疲労しているので、動ける者が動いて、それ以外は出来るだけ回復を優先した方がいいと思うのだ。それに、
「それに、シリルのことが気になるんだろう? 側にいてあげたらいいんじゃないか」
 そう言うと、ゼノは複雑な表情を浮かべて俯いた。
「いや、やめとくよ。オレ、あんまり気が利かないし、同性の方がシリルも気が楽だろ」
 そう語るゼノの表情はどこか陰りがあるように見える。何でもない風を装っているが、何か思うところがあるのだろうか。しかし疑問の答えを確かめる前に、ゼノはぱっと表情を変えた。
「そうだ。アルベルト、休憩よりも、今度でいいから手合わせしてくれねえか? おまえの剣技のコツ、教えてくれよ」
「あ、ああ。いいよ」
 突然の申し出に驚きつつも頷くと、ゼノは決まりだな!と嬉しそうに言う。その表情に先程までの影はない。話をそらされたのだろうか。そう思いつつも、今更話を戻せる雰囲気でもなさそうだ。そうしていると、今度は沈黙していたキーネスが不意に口を開いた。
「やけにそいつと仲がいいな」
 ゼノとアルベルトを交互に見ながら、キーネスは不可解そうに言う。そんな悪友にゼノは胸を張り、堂々と答えた。
「こいつとオレは親友になったからな!」
「親友……?」
 ゼノとアルベルトを怪訝そうな目で見ながら、キーネスはそう呟いた。その眼差しは険しく、懐疑の色を宿している。キーネスはしばし視線を往復させたのち、アルベルトの方へそれを固定した。
「一つ言っておく」
 キーネスの口調は重く険しい。やはりミガー人でゼノの親友でもある彼は、悪魔祓い師が親友と仲良くすることを望まないのだろうか。キーネスは取り立ててアルベルトを遠ざけるようなことはしないが、さりとて親しくするつもりもないようだ。やはり本心は悪魔祓い師を信用していないのかもしれな――
「ゼノの言うことを真に受けない方がいい。あいつは親友という言葉を大安売りするからな。騙されるな」
 神妙な顔でそう言われ、アルベルトは沈黙したまま数度瞬きした。想定と全く違う反応に思考が追いつかない。その間に横から声が飛んだ。
「うるせ。どーせ俺に親友が増えたから嫉妬してんだろ?」
「阿呆か。俺はスターレンとお前とで認識の差が存在することを指摘しただけだ」
 むっとしたゼノが食って掛かると、キーネスは真顔で言い返す。つまり彼は忠告してくれたということだろうか。“親友”というものが出来たことのないアルベルトと、たくさん友を作ってきたゼノでは“親友”の定義が全く違うかもしれないことを。考えてみれば当たり前な話だ。同じものを見ていても、人によって受け取り方は全く違う。
「認識の差ってなんだよ。親友は親友だろ? オレはアルベルトを騙すつもりなんてないぜ」
「自覚がないのが問題なんだ。お前は他人と馴れ馴れしくしすぎだ。もっと人との距離感を考えろ」
「人と仲良くするのはいいことだろ。そういうおまえは愛想なさすぎなんだよ。そんなんだから友達少ないんだぜ?」
「少ないからなんだ。本当の意味で信頼できる人間なんて数人いればそれでいい」
「そうかあ? 信頼できる人はたくさんいるに越したことねえじゃねえか。少なくていいなんて寂しい奴だな」
「なんとでも言え。大体お前は――」
 アルベルトを放置して言い合いを続けるゼノとキーネス。なんだかんだ言って、本音で言い合いが出来る彼らはとても仲がいい。羨ましいほどに。
「なあ! どう思う? アルベルト」
 不意に舌戦を繰り広げていたゼノが振り返り、同意を求めるようにそう言う。どうやら決着がつかなかったようだ。キーネスまでもがゼノと同じ眼差しでこちらを見ている。アルベルトは相好崩すと、しかめっ面のゼノに視線を向けた。
「たくさんの人と仲良くするのはいいことだと俺も思うよ」
 アルベルトがそう言うと、ゼノは我が意を得たりとばかり表情を明るくした。勝ち誇る悪友に、キーネスは冷たい視線を投げかける。そんな彼に、アルベルトは言った。
「キーネス。君の言う通りだ。俺は今まで親友と呼べる人がいたことがない。そんな俺とゼノでは考え方が違って当然だ。そのことを心に刻むよ」
 親友という言葉を過信して、距離感を誤らないように。キーネスは「ゼノに騙されるな」と言ったが、自分こそ彼を騙さないようにしなくては。アルベルトはそう心に決めてから、ふと大切なことを思い出し、何故か驚いている様子のキーネスに言った。
「そうだキーネス。スミルナでのことなんだが」
「……なんだいきなり」
 再び怪訝そうに眉を寄せるキーネスに、アルベルトは神妙な面持ちで告げた。
「あの時使った七ツ道具なんだが、弁償金はいくらになる? 持ち合わせがないからすぐに払えないが……すまない」
 なにせ今は財布がない。個人の自由になるお金など皆無だ。現在の状況が状況なのでメリエ・リドスに戻った後、日雇いに出ることも出来ない。弁償しなくてはならないのに、いつかは分からない収入があった時でないと払えないのが歯がゆいところだ……
 アルベルトが申し訳なさで心を痛めていた一方、弁償を切り出されたキーネスはいつもの無表情から少し目を見開いて、じろじろと目の前の男を見回していた。まるで珍獣でも発見したかのように、頭を垂れるアルベルトを凝視している。
「……本当に払う気だったのか」
「――?」
 微かに聞こえた呟きにアルベルトは顔を上げた。キーネスはどこか困惑した表情でこちらを見つめている。不思議に思って「どうかしたのか」と尋ねると、キーネスは我に返ったように首を横に振った。
「何でもない。あれの代金は四十万だ。払うならまとめて払え」
 四十万。その額に、アルベルトは目を見張った。あんな小さな道具が四十万とは。そんな高価なものだったのか。
「……それだけの金額、いつ払えるか分からない。だがいつか必ず払う。勝手な言い分だが、それまで待ってほしい」
「まあ……それは構わないが……」
「ありがとう。キーネス」
 安堵しつつ礼を言うと、何故かキーネスは視線を逸らした。どことなく後ろめたそうに見えるのは何故だろう。後ろめたく思うのはこちらの方なのだが、なにか気に障るようなことを言っただろうか。考えてみたが、これといった理由は思いつかなかった。