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ギブアンドテイク【前編】

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1年前にも、似たようなことを言った。


「春から転勤になったんだけど、おまえ俺についてくる気ない?」


でも、今度は冗談じゃない。

春から距離が離れることを嫌だと思うから、誘う。

さすがの滝本も、俺の好意は気づくはずだ。


「なんでよ。せっかくこんないい職場に就けたのに」

「俺は……さみしいんだよ。おまえがいないと」

「何言ってんの。いい大人が」


いまいち本気にとってくれないのは、今までの俺の行いが悪いせいだと思う。

いや、決定的な一言が言えないせい。

鈍感でなかったとして、彼女は今の関係を壊したくはないのだから。


「ご飯がまずいんなら、料理人の彼女でも作ればいいでしょ。高峰モテるんだし」

「……おまえ、掃除も出来ないくせに」

「がっつり稼いでハウスキーパーでも雇うから、安心して」


嘘つけ。

家が住めなくなったら、会社のソファーで寝泊まりするんだろ。

そもそも忙しくてクリーニングに出せないブラウスは買うしかないんだから、そんなに手取りないだろ。


「高峰が心配しなくても、わたしは案外平気なのよ」

「ーーああそうかよ」


かたくなに突き放す言葉に、何かが吹っ切れた。

もう勝手にしろよ、このバカ女。