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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「優しさの行方」 プロローグ

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母親の静江は旧姓の村山を名乗っている。友幸は長男で上に姉が居る。
早くに夫が亡くなり、中津川市の有名菓子店で働いて子育てをしてきた。
そんな母を見て自分が名古屋の大学に進学することは贅沢だと考えていたが、強く母親が進めるので甘えるままに二年浪人して国立の名古屋工業大学に入学した。

友幸はバイトをして大学の費用を母親から貰わずに賄おうと考えていた。
入居の契約を済ませて、一度家に戻った友幸と母親は三月末の大安の日に引っ越し便で今池のアパートにやってきた。
その日は遅くなったので母は泊まってゆくと言った。
聞いていた銭湯から帰って来て、布団を敷いたら一つしかないことが解り、母と一緒に寝ることになってしまった。

「母さん、布団一つだからごめんよ」

「そうだったね。あなたが嫌じゃなければお母さんは良いよ」

「嫌だなんて・・・」

そう言いかけて、ちょっと恥ずかしく思った。母もそう感じたのだろう。
嫌なら自分はどこかホテルに泊まると言った。

「もったいないことしなくていいよ。さあ、湯冷めしないうちに寝ようか」

母と一緒に布団に入る。背中を向けていたがとても温かく感じる。子供の頃のことが遠い記憶の中から甦るようだ。こんな落ち着いた気分は久しぶりに感じていた。

「母さん、おやすみ」

「うん、おやすみ」

都心部にしては一本幹線道路から外れているので、深夜は静かだ。
物音ひとつ聞こえない。
時計が0時を回って翌日になろうとするとき押入れの中から物音がすることに静江は気付いて目が覚めた。
隣の友幸は熟睡している。

少し起き上がって気配を探る。
物音は聞こえなくなっていた。

布団に入り目を閉じる。友幸の身体が自分の方を向いていて、横を向いても背中に手足が触れる。それを気にしながら寝苦しさを感じていると再び押入れから物音が聞こえた。

「何の音がするんだろう・・・」

起き上がって友幸を起こさないようにそっと押入れを開けて見た。
何もない。月明かりが差し込む薄明かりの中で静江はもう気にしないでおこうと目を閉じていた。