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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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切れない鋏 4.武の章 追悼本番

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 紗弥は「ハイハイ」と気のない返事をすると、ティッシュペーパーを引きだして武の顔をぬぐった。上から鼻をつまんできたので、痛みで思わず体をはね起こした。紗弥がいつもの仏頂面で「ぶっさいくな顔」と言っている。武は痛む鼻をさすりながら言った。

「もうあんなの……いやだから」

 慎一郎の遺体が出棺されるとき、母は棺桶にすがりついて泣いていた。何度もふたを開けようとして、係の人間に止められていた。時間の都合もあるのだろうけど、あまりにも淡々とことは進んで、火葬場へ送られた。焼き場の中へ送られる慎一郎にむかって、悲痛な叫び声をあげていた。どれだけ名前を呼んでも届かなくて、最後には骨を拾えと言う。

 それが日本式の火葬とはいえ、どれだけ残酷な現実を突きつければ気が済むのか、と式場の人間を呪いたい気持ちになった。母は父と愛美に支えられながら、涙もふけずに震える手で箸を握りしめ、骨を拾っていた。苦しみの渦中にいる両親に代わって自分が拾わなければ、と心の中で唱え続けた。そうしなければその場に崩れ落ちてしまいそうだった。

 紗弥は手を握りしめると、ぼそりとつぶやいた。

「小雪が死んでも呼ばないわよ」
「……絶対だからな」

 そう言いながら、ゆっくりと意識が落ちていった。紗弥が額に手を当てて何か言っていたが、そこからは聞き取れなかった。

 疲労なのか眠気なのか、よくわからない黒々とした闇が体中に広がって、武は全てを手放した。