冬のヒマワリ
11月の寒い朝、ぼくはいつもの散歩道を歩いていた。川幅が5メートルくらいの橋を渡り始めると、土手の下で小学低学年生くらいの、少女が穴を掘っている様子が見えた。小さなシャベルで掘っていた。良くは見えないが顎をしゃくり上げる様子がうかがえた。朝日が少女のうすい茶色の髪を金色に変えている。川面は朝日を反射しながら緩く流れていた。夜の高層ビルから走る車列を眺めた時のライトの光を感じた。きっと少女はマンション住まいなのだろうと感じた。
「掘るの手伝うよ」
ぼくは橋の上から少女に声をかけた。少女はこちらを観たが返事は返してくれなかった。ぼくは橋を渡り土手を降りた。ゆるい坂であったが、青々した草が生えていて、滑ってしまい、身体のバランスを崩すと、思わず声が出ていた。少女はその声でぼくの存在に気付いたようだった。
「何か埋めるのかな」
「ハムスター」
少女の足元には白いハムスターの死骸がハンカチの上に置かれていた。ぼくはその時、禁じられた遊びのメロディを思い出した。
「おじさんが掘ってあげる」
少女はシャベルをぼくに渡してくれた。そして、少女は両手でハムスターを包むように持った。少女のほほを伝わりながら、涙が朝日を浴びながら落ちていた。ぼくは早く埋葬してあげようと感じた。20センチは掘りたいと思い穴を見ると、少女が掘ったのはまだ5センチくらいであった。川原の土は砂利が多く、プラスチックのシャベルではうまく掘れなかった。ぼくは手で土や砂利をかき出した。
「お別れしようか」
少女は黙って、ハムスターにほほを寄せ、ハンカチで包み、穴の中へ静かに置いた。
別の袋からひまわりの実を出した。
「これ餌なの」
少女はそう言いながら穴の中に入れた。
「おじさん少し貰っていいかな」
「なにするの」
「お花を咲かせてみる」
ぼくは少女から貰った種を大きなプランターに蒔いた。早く花を少女に見せてあげたかった。プランターはビニールで覆い、100ワットの電球を2個付けた。2週間もすると芽がしっかりと出た。プランターの周りに棒を立て、簡単な温室に仕上げた。水を土が乾かない程度にやり、電球も倍の4個に増やした。仕事で昼間はいないが、妻が面倒をみてくれた。天気の日は太陽の当たる場所に移動してくれた。
2月の中旬に細い茎だけれど小さな花だけれど向日葵が咲いた。ぼくは少女の家に出向いた。
「向日葵が咲いてくれたよ。ハムスターの生まれ変わりだよ」
「ほんと」
ぼくは少女とその母親とを車に乗せた。
向日葵を見た少女は
「おじさんありがとう」
と言ってくれた。ぼくは少女のこの笑顔が1日でも早く見たくて、冬の向日葵を咲かせたかったのだ。
「きっと夏になれば、あのお墓には向日葵が咲くよ」
「あの時は悲しかったけれど、向日葵のお花が咲くの楽しみ」
ぼくは少女のその言葉は大切な宝物のように思えた。