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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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最後のイルミネーション

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表通りの街路樹は色とりどりのイルミネーションに包まれていた。
通りを歩いている人達は一生懸命になって記念撮影をしている。

周りの見えない人たち。
今も斜め前にいる女子大生が警備員に注意を受けている。

楽しそうなクリスマスソング。
楽しそうな景色。

そんな中で、僕はキミと最後の2人きりの時間を過ごした。

「ねえ、歩道橋渡らない?」
大人しいキミの声がとぎれとぎれに聞こえる。
小さなキミの声は気を抜くとすぐに周りの声に掻き消えてしまいそうだ。

キミは制服のコートの服の裾を引っ張った。
キミの小さな手がコートの中にシュッと隠れる。
手袋をつけていない君の手はかじかんでいるに違いない。
手を握って温めてあげたいけど、僕にその権利はない。

歩道橋に向かうキミの姿は、すぐに人ごみに隠れてしまう。
それを僕は必死に目で追いかける。

別に歩道橋に辿りついてしまいさえすれば、キミの姿は見えるに違いなかった。
今、歩道橋はクリスマスのイルミネーションの関係上、入場規制がかかっている。

それでも僕は1分1秒でも長くキミの隣に居たくて慌ててキミを目で探す。
でも、キミの姿は結局歩道橋に行くまで見つけられなかった。

本当にキミの存在は薄い。

声が小さければ、
ギャーギャー騒ぐこともない。
制服は特にアレンジしていないし、
髪は特にいじっていないボブカット。
顔も特に花があるわけでもない。
背も低い。

だから、キミの存在を僕が認識したのは高校3年の春だったんだ。

桜の花びらを思わせるような慎ましやかなキミは、
温かく清潔感があるけれども、意識をさせるにはインパクトが足りなかった。

もし、1年早くキミを意識していたのであれば、キミと僕はどうなっていたんだろう。

きっと、それでも無駄だったんだろうな。

そんなことを考えながら僕はキミとの最後の時間を過ごす。

キミは来年、キミの大好きな先輩と同じ地方の大学に行く。
僕はここに残る。

キミは僕の一歩先を歩く。
ふと横を見ればイルミネーション。

色とりどりの街路樹がサイドに光り、真ん中には規則正しい車の赤と白のライト。

来年になれば僕らは卒業するわけだから、この景色は2度と見られない。

最上級のシチュエーション。
ここで告白をしてみたら、何か変わるのだろうか?

「」
僕はキミの名前を呼んだ。
キミは振り返った。

笑顔だ。
優しい目元が印象的だ。
笑うと言うよりも微笑むと表現した方が適格なのかもしれない。

「受験勉強頑張ってね!」
僕はキミに言った。

キミは控えめに、でも、嬉しそうに微笑む。

大好きだった。
本当に僕はキミを大好きだった。

綺麗なキミとの思い出が
綺麗なイルミネーションと
綺麗なキミの笑顔によぎる。

涙が出て、
一歩間違えれば滲んでしまいそうな景色を、
僕は一生懸命心に焼き付けた。

期間限定だからこそ、美しく見えるのかもしれない。
それでも僕はこの景色を一生忘れずにいたい。

僕は茶色く染めた傷んだ前髪を掻き揚げ、キミに微笑んだ。