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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ノベリストの裁判所

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ノベリスト裁判、公判。

「被告、かなりえずきを訴えます!!」

検察側はいきなり強く宣言した。
被告は焦ってすぐに反論した。

「待ってくれ! ひとつだけ言いたいことがある!」

「被告、今は検察側の陳述です。
 おとなしく聞いてください」

「いやだって……」

「被告、従わない場合は退廷させますよ」

被告は不満はあれど指示に従った。

「あなたはファンタジーを多く書いているようですね。
 それはファンタジーを隠れ蓑にして、
 自分の隠れた願望を表現しているのではないですか?」

「そんなことありません! 違います!」

「否定なさるんですね。
 こうして訴えられたのもあなたの作品で
 ほかの人が迷惑になっているんですよ」

「だから、僕は……」
「被告、静粛に」

「あなたの作品では主人公がひどい目にあうことが多いです。
 それを読んだ人がどう思うかまでは考えないんですか?」

「ちがっ……!」

被告は反論しようとしたが、
裁判長の「黙って聞け」という視線がそれを制した。

「殺人犯罪者の多くは小動物の虐待から
 その対象が徐々に人間へとエスカレートしていきます。
 あなたもファンタジー世界の中で発散していたことが
 現実にシフトしていくのではないんですか?」

「そんなことありえません!」

「否定なさるんですね。
 では、どうしてノベリストなんかに来たんですか?」

「それは……別の小説サイトでアカウント停止になって、
 たまたまこのサイトを見つけたんです」

「そうですか」

検察は裁判長にWEBページのリストを提出した。

「小説投稿サイトはもっとメジャーなのがあるでしょう。
 『ハーメルン』『 E★エブリスタ』『小説家になろう』。
 たまたま見つけたというのは説得力に欠けますね」

「本当なんです! というか、一言だけ言わせてください!」

「被告、質問にのみ答えてください」

検察はすうと息を吸い込んで、
一息にとどめを刺しに向かった。

「あなたは詩や日記が多く投稿されているこのサイトなら、
 自分のおぞましい現実逃避を書き捨てても
 誰も批判しない、そう思ったんでしょう!
 サイト登録者は誰もが温和で優しいことにつけこんで!!」

「違います! そもそもが違うんです!
 聞いてください、裁判長!
 この人は大きな間違いをしています」

「被告の意見を却下します」
「なんで!?」

「あなたがここで裁かれることで、救われる人がいるんですよ。
 自分の罪を認めて優しい詩や素敵なエッセイを書けばいいんです」

裁判所に拍手が巻き起こった。
裁判長は納得したように木槌をたたいた。


「被告を有罪とします」


その決断に被告はついに立ち上がった。

「いい加減にしろ!! これだけは言わせてもらう!!」

「被告、裁判はもう閉廷しています。
 勝手な発言は控えて――」

「嫌です!!」

「……すぐに退廷させなさい」

被告の両脇で男ががっちりとホールドする。
そのまま引きずられるように出口へ向かう。

「これだけは言わせてもらう!!
 俺は……俺はかなりえずきじゃないッ!!」





「え?」

検察は目を丸くした。
そういえば、犯人の顔を見たことはなかった。

「そのかなりえずきって奴は誰なんだよ!
 俺はそんな名前じゃない!」

「それじゃ私たちは違う人間に
 罪をなすりつけて有罪にするところだったのか!
 なんて奴だ! 見つけたら逮捕してやる!」

「静粛に! もうすでに判決は出ています!
 絶対に、絶対に判決は変わりません!
 絶対にです!!」

被告が手を挙げた。

「……裁判長」

「なんですか」

「あなたの名前は?」



「かなりえずきです」

再審では被告の席に裁判長が座らされた。