BEAT~我が家の兄貴はロックミュージシャン
その後三人はリキに引き取られ、海と空が成人するまで四人で暮らし、寂しい思いはしなくて済んだ。父・吉良の顔を覚えていない陸は、小学校に入るまでリキを父親だと思い込んでいたほどだ。
「俺には、責任がある。吉良に変わってお前達を護ると云う責任が。それが、あいつへの償いだ」
リキは、十三年と同じ言葉を今度は空に言う。
「だから、親父が死んだのはあんたの所為じゅないと何度も言っただろう」
「俺の所為だよ。気付いてやっていればあいつを止められた。だから―――」
「ごめんな…」
空がポツリと呟いた言葉に、リキは何も言えなくなった。
―――ごめんな、兄貴。
それは、楽屋を出る時、リキが聞いた吉良の最期の言葉だった。
「今度のクリスマスも、出来そうもないな」
もう十年以上、天道家ではしなくなったクリスマスパーティー。苺がたくさん乗ったケーキに、こんがり焼けたチキン、クリームを口にいっぱいつけて笑う幼い弟(りく)の顔が浮かぶ。
兄弟三人で、追い続けた夢は間近と云う所にある。
「陸、兄ちゃんたちが連れて行ってやるよ。武道館ライブに」
未だ小学生の二人の兄は、そう陸に云ったのだ。あの日から、夢は動き出した。止めるわけにはいかないのだ。
その夜、空は譜面を前に新たに書き込みをした。
『BROTHERS』の作詞作曲も兼任する空は、母親譲りの絶対音感を持っている。
これまでにないそのアレンジに、空ははっきり言ってうまくやれるか理解らない。だが方法は、それしかないと躯が訴える。武道館ステージ実現の為の、切り札。ただそれは、とても危険だった。
作品名:BEAT~我が家の兄貴はロックミュージシャン 作家名:斑鳩青藍