「恋愛病院 不倫病棟」 第三十二回
里紗は祥子と別室に移った。
「里紗と言います。祥子さんより少し若いですがバツイチです。夫の浮気で悩んで別居しましたが、悔しくて離婚届にずっとサインしませんでした。先日会って話したら気持ちが吹っ切れたので、その足で区役所に行き正式に離婚しました」
「そうですか。お辛かったのですね」
「どうして浮気なんかしたんだろうって思いましたね。セックスも当たり前にしてたし、家のことも仕事もちゃんと出来ていたと思えるのにです。祥子さんはご主人から不満を言われたことがありますか?」
「夫は物静かな人なので普段から会話は余りありません。セックスも少ない方だと思います。私への不満はそれほど感じていないと思いますが、私からも何か言ったりはしませんのでよくわからないというのが本当のところです」
「当たり前の日々が続くと突然やってきた刺激に動揺させられるんですよね。私の夫もそうだったのかも知れません。そういう人に限ってダメな女に引っかかってひどい目に遭うんです。祥子さんも心の隙間から見えている光景は現実のものとは違いますから、きっと後悔されるようになると感じます」
「同級生の彼はひどい男だと感じられるのですか?」
「ええ、あなたが妻であることを知りながら誘って、抱こうとしているのでしょ?身体目的であることに間違いないですよ」
「私は里紗さんのように綺麗ではないし、魅力的ではありません。それでも彼は身体目的なのでしょうか?同級生なんですよ」
「独身の彼にとって祥子さんとは友達であっても恋愛対象になる相手ではありません。それはお判りでしょう?よく考えてみてください。会って話して食事して楽しく感じたらそのあとはホテル直行です。物語はそこで終演しますよ」
「私は夫に不満が無いと言いましたが、夜のことでみんなが話すような感じるという経験が無いんです。そのことへの欲求不満が彼の誘いに応じたいという気持ちになっていると知りました。同級生だから安心出来るという曖昧な思いは間違いですね」
「気持ちは女ですから解りますが、体を求めても感じられるものではないですよ。ご主人とお話されて寂しい気持ちを理解してもらってください。お二人でお越しいただければベテランの看護師が指南します」
気持ちが落ち着いたのであろうか祥子は夫と来ます、と言い残して病院を後にした。
作品名:「恋愛病院 不倫病棟」 第三十二回 作家名:てっしゅう