聖夜の女神様
「あぁ、そうだ、ちょっと有栖んところに行ってくる。あと、30分くらいで出番だからな。進行チェックと、懐炉の準備しとけよ」
と、言って里久先輩は控え室から出て行った。
私は一人取り残されて、しばらくぼーっとした後、おもむろにそばにあった懐炉を手に取って封を破いた。
そして、何がなしに鏡の中の自分と目があったような気がしたので、とびっきりの笑顔を作ってみた。目指すは有栖先輩の様な見る人に安心を感じさせるような温かい笑顔。このドレスを着ている以上、笑顔だけでも完璧にしなくては。
ヒマなので、練習してみよう。
しかし、有栖先輩の様な笑顔になれるよう試行錯誤しているところに、里久先輩が戻って着たら恥ずかしいかもしれない。
と、思った矢先、突然扉が開いた。
「うぁっ」
恥ずかしさのあまり、一瞬飛び跳ねてしまうほど驚いたが、ここは心を落ち着かせて平然とした様子でいるのが最善だ。
とりあえず、今作った笑顔を向けて
「里久先輩、もう少しですね」
と言ったのだが、私の目の前にいたのは里久先輩ではなかった。