ステップ・アップ!!
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本番当日
岬は知らなかったが実は前田社長が来ていた。
「こんな場所に呼びつけて何かね?」
相手は水野亜紀だった。
「貴方に見て欲しいものがあるの」
「それは?」
「もうすぐ体育館で行われる劇で貴方の所のタレントが主演の一人として出るわ」
「タレント?」
「もう忘れたの?工藤岬よ。まだ契約解除してないみたいじゃない」
「…それは…」
「彼女困ってたわよ。貴方と連絡がつかないから今は芸能活動出来ない状況だって」
「そうか…それはすまない事をしたな。彼女は残るのか、この芸能界という世界に」
「ええ。だから見ていって。そして今の彼女の覚悟を見てあげて」
「…いいだろう」
そして二人は別れた。
その頃、岬は控え室で衣装を着てメイクをしていた。着るのはもちろんロミオの衣装だ。おもちゃの剣を腰に差し何度も何度も深呼吸をする。
目を瞑り、頭の中を一度空っぽにする。
そこには誰もいない。
工藤岬という人間は完全に消えていた。
すると声が聴こえてきた。
……お前は誰だ……
「私はロミオ」
様々な思惑がある中、二の梅組の演劇『ロミオとジュリエット』が幕が開いた。
作品名:ステップ・アップ!! 作家名:本宮麗果