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lesson.1

　今や芸能界でトップの座に上り詰めたと言われている５人組がいた。
　それは平均年齢18.6歳の女性アイドルグループ『ルーレット』。リーダーのさやか(18)と人気トップの彩佳(18)の年長コンビを主として歌、ダンス、バラエティーを中心に活動の幅を広げた。そして今年の２月には待望の５人の映画が全国放映された。
　グループ最年少のミサキ(16)、本名・工藤岬は映画放映と共に人気に火が付き始めていた。
　しかし春休み全国全力ツアーの最終日、ちょうどテレビ収録も重なった最後の挨拶で人気トップの彩佳が突然言った。

「私、彩佳は今日この舞台を以てルーレットを脱退します！皆さん、今まで本当にありがとうございました！、」

　突然の事にファンも、メンバーも、記者達も、スタッフも、皆、ポカーンとなった。しかし、この時はまだ彼女の言葉が冗談だと思っていた人達が殆どで誰も本気になどしていなかった。
　だが翌日、各マスコミにある１枚のファックスが届いた。それは……


『ルーレットによる春休み全国全力ツアー最終日に人気トップの彩佳が告げた内容は事実であり、彼女は一身上の都合でルーレットを脱退し、所属事務所アースを辞め、一般人に戻る事が決定しました。またルーレットの他のメンバーについては後日本人達と話し合い決めて行きたいと思う所存です。』


…という内容だった。


　マスコミ各社はすぐにルーレットの所属事務所アースに電話を掛けた。事実確認の為に。するとアースの平岡社長に「事実である」と直接言われた。そして「彩佳本人による記者会見もさせるのでそこで直接本人に質問をふってくれ」と言われた。
　
　記者会見の日時は３月２８日(日)曜日の午前11時となった。

　　　　　●

　岬は思った。
　完全に出鼻を挫かれたと。
　ルーレットの中でも元々人気が無かった自分だったが映画公開の後、人気が増えた事を実感した。その効果は春休みにしたツアーにも現れていた。
　しかし、今はどうだろう？
　まだ映画公開中だというのに、話題は完全に彩佳の脱退…否、芸能界引退騒ぎに夢中になっているではないか。


……完全に終わった……


　たった３年という短い芸能界という世界だったが、自分にはやはり向いて無かったのではないかと思う。この先の事は社長に「悪いようにはしないが一応覚悟はして置いてくれ」そう言われているので覚悟はしておく。何の覚悟かは知らないが…。でも彩佳が居なくなるときっとルーレットは終わる。そのくらいは最年少の岬にだって分かる。そしていつの間にか消滅して、事務所アースも…。そこまで想像出来る自分が嫌になった。

　そして彩佳芸能界引退記者会見当日。
　彩佳は記者達の前に出てきて一礼した。
　マイクを持つと記者達に「質問をどうぞ」と言った。

「何故ルーレットを脱退するのですか？」

「一身上の都合です」

「グループ内でイジメでも合ったんですか？」

「有り得ません」

「メンバーと仲が悪かったとかですか？」

「普通に良いです。刺激しあえる仲でした」

「ならば何故今なんですか？」

「タイミングが重なっただけです」

「それは何に対してのタイミングですか？」

「色々あります。もう私も18で今は高校卒業もしましたし、これからは一社会人として過ごして行こうと思っていました」

「メンバーには悪いと思わないのですか？」

「突然の事で申し訳ないと思っています。しかし彼女達も馬鹿じゃありま
せん。例えアイドルを辞める事になっても自分達の好きな事で成功出来ると私は信じています」

「あのメンバー達が後に成功出来ると？」

「出来ますよ。ああ見えて皆、才能の塊の集合体でしたから」

「特に誰に感じていたんですか？」

「それは秘密です。それに私がここで直接言うよりも本人が皆さんにその
才能を見せる方が速い気がするので」

「本当に一身上の都合なんですね？」

「本当に一身上の都合です」

「…そうですか、分かりました」

「皆さん、今日は私の為に集まって頂き大変ありがとうございました。私、ルーレットの彩佳は本日限りでルーレットを脱退、そして芸能界も引退します。たった３年という短い時間の中で様々な経験をしました。今日まで支えてくれた平岡社長、マネージャー、事務員、そしてメンバーのさやか、リナ、愛子、ミサキ…今まで本当にありがとう。私は今日でこの世界を辞めるけど貴女達なら例えどんな道に進んでもきっと成功するでしょう。だから……頑張って…さよなら……」

　こうして午後13時半にルーレット彩佳の芸能界引退記者会見が終了したと同時に、彩佳は一般人の三好彩可になったのだった。