『迷子』
「迷子のお知らせをいたします。東丸山市からお越しの・・・」
迷子のアナウンスが流れている。というかそんなことはどうでもいい。俺は今すげぇむかついている。先日の文化祭でライブを成功させて、将来は、今のバンドでプロデビュー! みたいなことを考えてたのに、俺の親ときたら、あんた、何考えてるの? まずは大学に行って、まっとうな仕事に就きなさい、だもんな。そんなのお前の価値観じゃねぇか、俺が目指したいんだから俺の勝手だろって言いたかったけど、何も言えずここまで来ちまった。
近所にあるデパート。そこの屋上のベンチに俺は座っている。腹たって出てきたけど、戻んのも恥ずいしな〜。いや考えてみれば何で俺の方から行かなきゃなんねぇ〜んだよ。悪いのはあっちだろ、向こうから電話の一つでもありゃ考えるけど、って電話きてんじゃねぇ〜か。何だよ、これ、なおさらやりにくいじゃねぇ〜か、俺は折れねぇぞ。そう決めてふと立ち上がったとき、横、いや正確には下から声をかけられた。
「お兄ちゃん、遊んで」
固まった。別に俺は急な振りに弱いわけじゃない、決して。あまりに特異な状況だったために困惑した。本当ならなにかしら声をかけねばならないんだろうが、とにかくこの場から逃げたくて走った。何も考えず、ただひたすら、子供に声をかけられて動揺しちゃったミノの心臓みたいなやつがボーカルでプロになろうというのだから笑い話もいいところだが、俺は逃げた。だが、子どもは遅いものの走ってついてきた。段々走ってる自分がアホらしく思えてきてそこで冷静さを取り戻した。走るのをやめ子供のほうを向いた。急に俺が向いたため、あやうくぶつかりそうになった。
「ぼ、ぼくと、あ、遊んでくれる?」
息も絶え絶えに言う男の子に、俺はさっきまで逃げてたとは思えないような感じで
「いいよ、ぼく名前は?」
「さとし」
「さとしくんか、歳は?」
「9歳」
「9歳か、お兄ちゃんは太一ってんだ、よろしくな」
「太一、ゲームセンター行きたい」
「太一って、えっ、でもまだ」
「早く、こっち、こっち」
言われるままにゲームセンターに向かったはいいが、当然お金を持っているはずもなく
「太一、お金貸して」
「あのな、さとし。目上の人には敬語を使うんだぞ」
「敬語? なにそれ?」
「敬語ってのは、例えば自分より年上の人は名前の後ろにさんをつけるとか」
「それじゃ、太一さん?」
「そうそう、そういうことだ」
「なんか言いにくいね、やっぱ太一でいいや」
「やっぱってなんだよ」
財布の中身を開けるさとし。しかし中には15円しか入ってなかった。
「それならおいしい棒が1本買えるな?」
「おいしい棒?」
「さとし、おいしい棒知らないのか?」
「うん」
「お菓子だよ、バーベキュー味とか色んな味があるやつ」
「へぇ〜、そんなのあるんだ・・・、じゃなくてお金ないから出して」
「そういわれてもな、俺も全然ねぇからな」
「ないの?」
と言い、泣きそうになるさとし。
「待って、あるある、大丈夫」
さとしと一緒に俺もやった。ゲーセンにはあんま来ないので俺も楽しめたが、相手は小さいため、わざと負けるのがここまで大変とは思わなかった。そんなこんなで一通り遊んだ後、お腹が空いたと言うので、レストランで食事した。
「ご飯おいしいか?」
「おいしい」
なぜか人の目を気にする俺がいた。悪いことはしてない、兄弟に見えなくもないか、いやそれにしては年が離れすぎなような。俺は今までしてなかった質問をすることにした
「お母さんはどうしたの?」
これは本来会って一番に聞くことだとは思うが、この今までさとしに振り回され、動揺していたため、聞けずにいたのだ。
「知らない」
「知らないって、一緒に来たんじゃねぇの?」
「覚えてない?」
「さては喧嘩でもしたな?」
「太一には関係ない」
「俺もいつまでも一緒にいれるわけじゃないからな。ご飯も食べたし、お母さんのとこへ帰るか」
「いやだ、絶対帰らない」
「変な意地張ってないで仲直りしたほうがいいぞ」
「意地なんか張ってないもん」
泣きそうになっているさとしを見て、泣かれでもしたら大変だと思った俺は、そそくさとレストランを出て公園に向かった。
「ほら、砂遊びでもするか?」
「汚れるから嫌」
「砂遊び楽しいぞ」
と言いながら、勢いで砂場に入る俺。しかし靴の中に砂が入ってしまった。うかつだった、
しかもこの靴昨日買ったばっかだったことを思い出し、少し落ち込んだ。
「太一が遊びたいならいいよ。ぼくは入らないけど」
「そっか、砂遊びは楽しいぞ」
本当はさっさと出て靴の中に入った砂を出したかったのだが、入った手前出るに出れず、しかも楽しさも伝えなくてはならなくなったため、ほぼ十何年ぶり位に砂山を作った。爪の中に砂が入ろうがズボンが汚れようが気にしなかった。なんだかんだで作ってみたら楽しくなってた。
「ほらこの砂山いいだろー」
それを足で潰すさとし。
「あっ」
「すぐつぶれちゃうよ」
「そ、そうだな・・・」
本当は何つぶしてんだ! とか言いたかったが相手は子供なため言うのをやめた。
「ゲームしてる方がいい」
公園に向かうまでの間、終始下を向いたままだったさとしに元気になってもらおうとここまでやってみたが、無駄だったようだ。
「昼間流れてたアナウンス、あれお前のことじゃないのか?」
「どうしてわかったの?」
「なんとなくな」
「迷子って言ってたけど、わざとだろ」
「ゲームやめなさいって言ったんだ、やっても意味ないって」
「そんなことはないだろ」
「そうだよね、ぼくもそう思う。でも許してくれないんだ」
「なんで許してくれないんだろうな?」
「わかんないよ、考えたこともない」
「心配なんだよ、ゲームばっかして勉強しないことが」
「お母さんみたいなこと言うね」
「やっぱ今のはなしだ。俺も人のこと言えねぇ〜し」
「太一も喧嘩したの?」
「まあ、な」
「子どもだね」
「お前に言われたくないわ」
「太一の家に行きたい」
「だめだ、さとしにはさとしの家があるだろ」
「いやだ」
「家に帰んないと好きなアニメ見れないぞ、もうすぐ夕方の5時だ」
「やばっ、もうすぐバクハツレンジャーが始まる」
「家に帰んないとバクハツレンジャー見れないぞ」
「わかったよ、帰るよ。でも一緒に来て」
「ああ、ただな、別にお前のことが嫌いだからお母さんは反対してるわけじゃないってことだけはわかってやれよ」
「つまらないものですが、食べていってくださいね」
「いいですよ、こんな」
「さとしが色々ご迷惑おかけしたみたいで」
「全然大したことではないですから」
「大したことじゃないって言ってんじゃん」
さとしのお母さんがさとしの頭にげんこつをして
「何言ってんの、元はといえばあんたのせいでしょうが。本当にすいません」
「いいですよ、気にしないでください」
「チャンネルどこ?」
「そこにあるでしょう?」
「あっ、あった。あった」
テレビをつけるとちょうどバクハツレンジャーが始まったところだった。
「この世界から人々を守るため、爆弾を使って世界を救う、爆弾戦隊バクハツレンジャー、どかーんと参上だぜ」
「良かった、間に合ったー」
「あの子ったらもう」
迷子のアナウンスが流れている。というかそんなことはどうでもいい。俺は今すげぇむかついている。先日の文化祭でライブを成功させて、将来は、今のバンドでプロデビュー! みたいなことを考えてたのに、俺の親ときたら、あんた、何考えてるの? まずは大学に行って、まっとうな仕事に就きなさい、だもんな。そんなのお前の価値観じゃねぇか、俺が目指したいんだから俺の勝手だろって言いたかったけど、何も言えずここまで来ちまった。
近所にあるデパート。そこの屋上のベンチに俺は座っている。腹たって出てきたけど、戻んのも恥ずいしな〜。いや考えてみれば何で俺の方から行かなきゃなんねぇ〜んだよ。悪いのはあっちだろ、向こうから電話の一つでもありゃ考えるけど、って電話きてんじゃねぇ〜か。何だよ、これ、なおさらやりにくいじゃねぇ〜か、俺は折れねぇぞ。そう決めてふと立ち上がったとき、横、いや正確には下から声をかけられた。
「お兄ちゃん、遊んで」
固まった。別に俺は急な振りに弱いわけじゃない、決して。あまりに特異な状況だったために困惑した。本当ならなにかしら声をかけねばならないんだろうが、とにかくこの場から逃げたくて走った。何も考えず、ただひたすら、子供に声をかけられて動揺しちゃったミノの心臓みたいなやつがボーカルでプロになろうというのだから笑い話もいいところだが、俺は逃げた。だが、子どもは遅いものの走ってついてきた。段々走ってる自分がアホらしく思えてきてそこで冷静さを取り戻した。走るのをやめ子供のほうを向いた。急に俺が向いたため、あやうくぶつかりそうになった。
「ぼ、ぼくと、あ、遊んでくれる?」
息も絶え絶えに言う男の子に、俺はさっきまで逃げてたとは思えないような感じで
「いいよ、ぼく名前は?」
「さとし」
「さとしくんか、歳は?」
「9歳」
「9歳か、お兄ちゃんは太一ってんだ、よろしくな」
「太一、ゲームセンター行きたい」
「太一って、えっ、でもまだ」
「早く、こっち、こっち」
言われるままにゲームセンターに向かったはいいが、当然お金を持っているはずもなく
「太一、お金貸して」
「あのな、さとし。目上の人には敬語を使うんだぞ」
「敬語? なにそれ?」
「敬語ってのは、例えば自分より年上の人は名前の後ろにさんをつけるとか」
「それじゃ、太一さん?」
「そうそう、そういうことだ」
「なんか言いにくいね、やっぱ太一でいいや」
「やっぱってなんだよ」
財布の中身を開けるさとし。しかし中には15円しか入ってなかった。
「それならおいしい棒が1本買えるな?」
「おいしい棒?」
「さとし、おいしい棒知らないのか?」
「うん」
「お菓子だよ、バーベキュー味とか色んな味があるやつ」
「へぇ〜、そんなのあるんだ・・・、じゃなくてお金ないから出して」
「そういわれてもな、俺も全然ねぇからな」
「ないの?」
と言い、泣きそうになるさとし。
「待って、あるある、大丈夫」
さとしと一緒に俺もやった。ゲーセンにはあんま来ないので俺も楽しめたが、相手は小さいため、わざと負けるのがここまで大変とは思わなかった。そんなこんなで一通り遊んだ後、お腹が空いたと言うので、レストランで食事した。
「ご飯おいしいか?」
「おいしい」
なぜか人の目を気にする俺がいた。悪いことはしてない、兄弟に見えなくもないか、いやそれにしては年が離れすぎなような。俺は今までしてなかった質問をすることにした
「お母さんはどうしたの?」
これは本来会って一番に聞くことだとは思うが、この今までさとしに振り回され、動揺していたため、聞けずにいたのだ。
「知らない」
「知らないって、一緒に来たんじゃねぇの?」
「覚えてない?」
「さては喧嘩でもしたな?」
「太一には関係ない」
「俺もいつまでも一緒にいれるわけじゃないからな。ご飯も食べたし、お母さんのとこへ帰るか」
「いやだ、絶対帰らない」
「変な意地張ってないで仲直りしたほうがいいぞ」
「意地なんか張ってないもん」
泣きそうになっているさとしを見て、泣かれでもしたら大変だと思った俺は、そそくさとレストランを出て公園に向かった。
「ほら、砂遊びでもするか?」
「汚れるから嫌」
「砂遊び楽しいぞ」
と言いながら、勢いで砂場に入る俺。しかし靴の中に砂が入ってしまった。うかつだった、
しかもこの靴昨日買ったばっかだったことを思い出し、少し落ち込んだ。
「太一が遊びたいならいいよ。ぼくは入らないけど」
「そっか、砂遊びは楽しいぞ」
本当はさっさと出て靴の中に入った砂を出したかったのだが、入った手前出るに出れず、しかも楽しさも伝えなくてはならなくなったため、ほぼ十何年ぶり位に砂山を作った。爪の中に砂が入ろうがズボンが汚れようが気にしなかった。なんだかんだで作ってみたら楽しくなってた。
「ほらこの砂山いいだろー」
それを足で潰すさとし。
「あっ」
「すぐつぶれちゃうよ」
「そ、そうだな・・・」
本当は何つぶしてんだ! とか言いたかったが相手は子供なため言うのをやめた。
「ゲームしてる方がいい」
公園に向かうまでの間、終始下を向いたままだったさとしに元気になってもらおうとここまでやってみたが、無駄だったようだ。
「昼間流れてたアナウンス、あれお前のことじゃないのか?」
「どうしてわかったの?」
「なんとなくな」
「迷子って言ってたけど、わざとだろ」
「ゲームやめなさいって言ったんだ、やっても意味ないって」
「そんなことはないだろ」
「そうだよね、ぼくもそう思う。でも許してくれないんだ」
「なんで許してくれないんだろうな?」
「わかんないよ、考えたこともない」
「心配なんだよ、ゲームばっかして勉強しないことが」
「お母さんみたいなこと言うね」
「やっぱ今のはなしだ。俺も人のこと言えねぇ〜し」
「太一も喧嘩したの?」
「まあ、な」
「子どもだね」
「お前に言われたくないわ」
「太一の家に行きたい」
「だめだ、さとしにはさとしの家があるだろ」
「いやだ」
「家に帰んないと好きなアニメ見れないぞ、もうすぐ夕方の5時だ」
「やばっ、もうすぐバクハツレンジャーが始まる」
「家に帰んないとバクハツレンジャー見れないぞ」
「わかったよ、帰るよ。でも一緒に来て」
「ああ、ただな、別にお前のことが嫌いだからお母さんは反対してるわけじゃないってことだけはわかってやれよ」
「つまらないものですが、食べていってくださいね」
「いいですよ、こんな」
「さとしが色々ご迷惑おかけしたみたいで」
「全然大したことではないですから」
「大したことじゃないって言ってんじゃん」
さとしのお母さんがさとしの頭にげんこつをして
「何言ってんの、元はといえばあんたのせいでしょうが。本当にすいません」
「いいですよ、気にしないでください」
「チャンネルどこ?」
「そこにあるでしょう?」
「あっ、あった。あった」
テレビをつけるとちょうどバクハツレンジャーが始まったところだった。
「この世界から人々を守るため、爆弾を使って世界を救う、爆弾戦隊バクハツレンジャー、どかーんと参上だぜ」
「良かった、間に合ったー」
「あの子ったらもう」