乙女たちの幻想曲 第1回 Secret Garden
Secret Garden
杉崎彩(すぎさき あや)は、いつかこんな夢を見た。
彩は、そんなに新しくない折り畳み椅子に座って、ベッドの中の恩田水音(おんだ みおん)の少し青ざめた顔を見つめていた。
彼女は、半開きの目を彩に向けると、
「私…もう長くはないわ」
と小声で言った。彩は心配そうに尋ねた。
「えっ、そうなの?」
「ええ、そうよ」
暗いピンク色のストレートの長髪は、彼女の白く透き通った肌によく似合う。
「ねえ水音、水音は、本当は旅立つのは嫌?」
彩が尋ねると、水音は一瞬、悩んだ顔をして答えた。
「嫌じゃないと言ったら、それはうそね」
「そうなのね」
まだ不安そうな顔をする彩に、水音は、慰めるような優しい眼差しを親友に向けた。
「ねえ彩」
「なあに、水音」
「お別れの前に、あなたにしてほしいことがあるの」
彼女の声はそれまでよりも小さくなっていたので、彩は美しき親友に自分の顔を近付けた。
「ごめんなさい?」
水音は、大きくまばたきをして言った。
「お別れの前に、あなたにしてほしいことがあるの」
「どんなこと?」
「西にあるあの庭に行って、そこに咲いている白い花を1輪摘んできて。そして、それを私の髪に挿してほしいの」
彩は、水音の顔を無言でじっと見ると、尋ねた。
「白い花?」
「ええ、白い花。あなたがここに戻ってくるまで、私は死なないから」
彩は黙ってうなずくと、部屋を後にした。
作品名:乙女たちの幻想曲 第1回 Secret Garden 作家名:藍城 舞美